温泉クンの旅日記

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有福温泉 島根・江津

2009-11-22 | 温泉エッセイ
  <有福温泉>

 有福とは、いかにもありがたい名前の温泉である。



 横幅の広い島根県の西の端っこ、海沿いの国道から離れて山間にむかってしば
らく走ったところにある、ひっそりとした静かで小さな温泉町だ。開湯は千三百
年まえと、古い。

 十軒ほどの宿と、民家が、低い山の狭い面積の斜面に行儀よくはりついていた。
 客は、下にある駐車場に車を停めて、荷物を持って石段をふうふうとあがって
いかねばならない。
 その石段が、この有福温泉を「山陰の伊香保」といわれる所以であろうが、
伊香保とはスケールが違いすぎてこれはかなり無理がある。
 この温泉地は、静かで小さい、を売りにすればいいと思う。



 今日の宿は階段をあがりきったところにあった。下から見上げたほどの苦労は
なかった。
 チェックイン・・・というより宿帳に記入をすませると、二階の窓際に面した
部屋に案内された。あがってきた石段と、駐車場が下のほうにみえる。

(なにはともあれ、温泉だ!)
 浴衣に着替えてさっそく浴場に向かう。
 湯がぜいたくにあふれて、静かに流れている。



 無色透明の単純温泉。とにかく、とても柔らかなお湯である。美肌にいいと
いう。
 温泉津の強い成分の濃いお湯とは、まるで違う。温度は、すこし温めである。
 徹夜明けで使い続けてくたびれきった身体に、なんどでもはいるのならば、
こういう温泉がいいのだろう。

 有福温泉はどちらかといえば山のなかにあるのだが、浜田漁港が近いので新鮮
な魚介が食卓にのぼる。

 夕食を終えると、外湯にいくことにした。
 共同浴場は御前湯、やよい湯、さつき湯の三軒ある。
 やよい湯はぬるいと聞いたので、まず、さつき湯にはいることにした。



 すこし深めの浴槽に、わたし好みのすこし熱めの、たっぷりの湯があふれて
いる。
 腕をまわし、首をまわし、脚を曲げ伸ばす。ポンコツの、あちこちのジョイン
トで油が切れ掛かっているわたしの身体の隅々に、ありがたい有福の湯が浸透し
て動きがスムースになっていく。
 大満足の外湯であった。

 朝食前に宿の内湯、朝食後には外湯の午前湯にはいる。





 昭和初期に作られた、タイル張りの外観が有名な外湯である。前回ここに来た
ときに立ち寄っている。



 昨夜はいった、さつき湯の前を通り、狭い温泉街をぶらぶらして、宿に戻る。
 玄関をはいったところで、寡黙な宿の主人が靴を磨いていた。そういえば、出
かけるときにも靴を磨いていて見送られた。



 風がはいってくるロビースペースのところで、一服する。
 部屋に戻って、出発の準備をして降りてくると、ご主人の靴磨きもようやく
終了するところのようである。

 宿代を支払い、さて靴を履こうとして、自分の靴がなかなか見当たらない。
 天気も悪かったので、泥まみれが白く乾いて汚い靴のはずだ。誰かが間違えて
履いていくとは思えない。

(あっ、これだ・・・)
 実際には、目の前にあるのだがピカピカすぎて気がつかなかったのである。
 靴下を洗ってくれた宿、靴を磨いてくれた宿、どちらも経験をしているのだ
が、実際にはいままでそれぞれ一軒しかしらない。できそうで、なかなかできな
いサービスである。



 ご主人にお礼をと探すが見当たらない。
「こんなに綺麗に磨いていただきありがとうございました。そう、ご主人にくれ
ぐれもよろしくいっておいてください」
 そう、仲居さんに頼んで宿をあとにしたのであった。


  →「温泉津温泉(1)」の記事はこちら

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