温泉クンの旅日記

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八重原温泉 長野・東御市

2008-11-30 | 温泉エッセイ
  <八重原温泉>

「おぉー、今日はなんとも浅間山がきれいだわぃ」
「ほんとに。噴煙がたなびいていますね」
 農作業でだろう、浴槽の縁に座った引き締まった身体つきの老人ふたりがしゃべ
っているのが耳にはいる。



(雲かと思ったら噴煙なんだ・・・・)



 浅間山は世界でも有数な活火山であり、最近の噴火は2004年、1983年の爆発では
福島県の太平洋岸でも降灰が確認されたという。
 あらためて目を凝らしてみるが、雲のようにもみえるが噴煙といわれればたしか
にそうも見える。



 温泉好きなわたしだが、もともと長風呂のほうではない。よほどのぬるめの湯で
あれば別だが、たいていは三分からいいとこ五分であがってしまう。
 ただ何回でもはいる。一泊すると少なくても五回、多いときには七、八回は入る
のだ。
 
 ぎっくり腰がようやく良くなってきて、近場の温泉ぐらいは運転できそうであ
る。できれば、じっくり腰を温めたい。つまり長風呂したい。
 冷たい外気で涼める露天風呂が好適だ。ついでに景色がよければ長風呂しても
きっと退屈しないだろう。
 腰に負担がかからない距離にある、諸条件を満足する温泉・・・必死で考えて
思いついたのがここ八重原温泉である。





 ここは温泉とすれば、塩化物泉であたたまる泉質でまあたいしたことはないのだ
が、景色は得がたいものがある。露天風呂は囲いも目隠しもないから、眼前に雄大
な景色が広がるのだ。
 施設もきれいで広く、料金も手ごろである。だから割と、ここには来ることが
多いのだ。

(うぅ・・・むぅ)
 温泉に浸かりながら、腰のあたりを両手で湯を塗りつけるように揉みこんでい
く。腰がすむと、肩を片方ずつ軽く廻すようにほぐす。膝を屈伸させ、また腰に
戻る。
 視線は絵のようにくっきりした浅間山に預けたままである。やはりここに来て
正解だった。

「あの畑、あそこだ、あれは誰の畑だったっけ?」
 眼下に広がる畑の一部を指さしながら、片方の爺さんが訊けば、
「あれかあ、あれはXXのとこの一番上の息子がやってる畑だあ。ほら、町でレスト
ランを開いてる・・・」
「ああ、そうかあ。あそこのセガレか」
 ふたりは、温泉で温まっては、浴槽の縁で身体を冷まして四方山話に興じてい
る。

 
 わたしも茹ってきたので、浴槽の縁に腰を下ろし畑を吹き渡ってくる冷気で身体
を冷ますことにした。
 ふう。いい景色をみながらの温泉は格別である。これは腰が良くなりそうだ。
 湯あたりしないていどに、腰のために何度もはいるとしよう。

 早朝の一番風呂だ。






 
 誰もいない露天風呂で、朝日が昇ってくるのを見物する。



 まさに至福の時を、ひとりきりで独占できた。
 



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