温泉クンの旅日記

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梅木温泉 静岡・中伊豆

2006-08-23 | 温泉エッセイ
  < 健康志向の宿 >

 その宿は中伊豆にあった。

 修善寺にほど近いところで、修善寺から伊東に向かう街道を車で10分ほど走り、
宿の表示された小さな案内板を見て、指示された道を右に折れ住宅地の中の細い道
を辿る。



「神代(じんだい)の湯」。一泊二食、一万円。
 新築木造二階建てで、宿泊する二階は小奇麗な学生寮といった趣である。六畳の
狭いがまだ真新しい部屋に案内されて、なにかしらいつもと違う、と感じる。トイ
レがない。これは、値段からいってしょうがない。ほかのなにか・・・。

 灰皿がない・・・。禁煙かいな、う、嘘だろう。
「あのぅ、この部屋って禁煙なんですか」
 まさかぁ、そんな訳ないよね、ねっねっという視線で案内したオネエサンに尋ね
ると、
「そうです」
 と、有罪を言い渡す裁判官のようにきっぱり言われ、顔面蒼白思わずヨヨヨと泣
きくずれそうになる。聞いてないよー、というくだらないギャグがすかさず浮かん
だが、言う気力もない。

 酒は年一回の半日人間ドックの前、一週間だけ抜く。粉飾決算だぁ、一夜漬け
だ、呑んべえ道を踏みはずすなとか、なんと言われようが気にしない。笑われよう
が罵られようが平気である。そう、たまには己が五臓六腑を駆け巡る血中の、酒精
を抜くのだ。一週間抜ける自分は、まだアル中ではあるまい。そう、確認するので
ある。

 ところが、煙草は止めない。やめられない。人間ドックの朝起きてからドックの
終わる4時間ぐらい、吸わないのがせいぜいである。宿の朝食どきの禁煙に、やっ
とこさっとこ慣れてきたけど、部屋とは初めてだ。到着そうそうに、わたしは急に
不機嫌になってしまった。

 連休に一泊一万円で空いていた宿、思い切り喜んで飛びついたけど、そうだった
のね。
 がっくり落ち込んで、卓の上の案内をボンヤリ読む。セルフ・・・はいはい、健
康志向・・・ふう。煙草は・・・。えっ、なんですとぉ、急に眼が爛々と光る。
煙草は、二階の階段の踊場、食事室、温泉棟の灰皿のある場所、の三箇所で吸え
る。 
 やったーなんだ、吸えるんじゃん。ちゃんと言ってくださいよ。さっそく、いつ
もの温泉大好き人間にもどり、いそいそ鼻歌歌いながら浴衣に着替えるのであっ
た。

 温泉は本館にある「北投石」を沈めた貸切の内風呂と、温泉棟にある内風呂、露
天風呂そして「北投石」ミストサウナである。北投石はホクトウセキと読む。
 そのナントカ石について宿の案内によると、こう書いてある。

『北投石とは、火山岩に一万年以上の間温泉が浸透し、硫酸バリウムと硫酸鉛が結
合してできた、天然ラジウムを持つ奇石。天然記念物で、特別文化財である。
北投石から放射するラジウム・エマナチオン(ラドンガス)が人体の内部に浸透し
て細胞を活性化させ、血行を促進し、次第に内臓に作用して各器官が改善される。
適量のラジウムを浴びると副腎の働きが活発になり、ホルモンの分泌が増えて原始
生命を助長し、快感と疼痛の緩和をきたし、活力がつく。北投石の産出地は、秋田
の玉川温泉と台湾の台北温泉』

 だそうである。そういえば、世界の秘湯とか奇跡の秘湯とか呼ばれる玉川温泉
で、この北投石という文字をみたような気もする。ま、玉川温泉を話すと長くなる
のでやめとく。あとで、すこし調べたら台北にある温泉は北投温泉ということで、
たぶん、これが石の名の由来だと思う。

 とりあえず、まず温泉棟へいってみた。神代橋となずけた空中回廊を渡る。下は
道路と小川である。街道から離れている山際なので、静かである。いったん外にで
て渡り廊下を歩くので冷える。

 サウナというものに入ったことがない。血圧が高いので、ああいう焦熱地獄みた
いなところは嫌いなのだ。正味な話、大昔一度はいり数十秒で血相変えて飛び出し
て大笑いされた、苦いトラウマがあるのである。



 それでも、長ったらしい御託並べた北投石を使用した、なんともありがたそうで
効き目ありそうなサウナには惹かれるものがある。それほど高温ではないらしい。
 えぇい、意を決してはいったら、なんとかだいじょうぶであった。板敷きの床に
寝そべり、木製枕に頭をのっける。天井にあるスプリンクラーみたいなのから、
霧状に北投石の効能をミックスした温泉が吹りかかる。2分ほどじっとしていた
が、こらえきれずにでてしまう。



 内風呂は5人ほどはいれる広さである。砂利を敷き詰めて、ところどころ圧縮空
気の気泡があがっている露天風呂のほうが、温泉の匂いが格段に濃い。大きさは、
内風呂と同じぐらいである。両方とも源泉かけ流しだ。湯量も豊富、贅沢なもの
だ。

 夕食は、完全に健康食であった。キンピラや菜などを使った有機野菜中心の皿が
ならぶ。熱い料理は、鮭のロールキャベツと、野菜がいっぱいはいったナントカ
豆腐の餡かけである。
 食事室は、ほんとうは喫煙できるのだが誰も吸っていない。置いてある酒やビー
ルなども健康志向の色こく、なんか煙草も吸いにくい雰囲気なので、わたしも黒糖
焼酎の水割りを健康的に二杯で切りあげた。ご飯が、玄米、小豆、粟ヒエの混ざっ
たもの。赤飯にかける胡麻塩をかけて、二杯いただいた。一食だけなら、こういう
趣向もよろしい。

 食後に貸切の本館内湯を試したみた。3人がらくにはいれる浴槽のなかに、北投
石の詰まった金属製の筒がいくつか沈めてある。浴場にいく途中に、北投石水の
タンクがあったので、飲んでみたが味がよくわからない。
 部屋に戻って自分で布団を敷き、ゆっくり酒を呑みなおす。

 酒飲みは朝がはやい。根元ぐらいまで吸った煙草を、昨夜から灰皿にしている枕
元のウーロン茶の缶に投げ入れる。6時になるのをまって、温泉棟へいった。
 暖簾をくぐり引き戸を開けて脱衣場にはいると裸の先客がいた。

「おはようございます」
 と挨拶したが、返事をしない。会釈ぐらいしろ。先客は脱衣箱に向かっているの
で、わたしには横向きである。刈上げ頭の、うらやましいほどの細身のヤツだ。
彫像のように固まったポーズで、息をのんで目を見開いている。
 太股が生白い。
 ん。なにかおかしい。ナニかがなく、ナニかがある。あら。オーマイ、ガアッ
ド。
「シ、失礼、しましたぁ」、あわてて飛び出る。そのひとは女性だったのだ。なん
てこったい、ああ、朝食の席で会ったらきっと、目三角にして指差されるぞ。うー
ん、参った。

 勝手に変わったが、昨日はここが男風呂だったんだ。わかりにくい暖簾だけで
は、区別できんぞ。
 宿から、前もっての説明がまったくなかった。刈上げだった。
 いろいろ言い訳があるが、まるで説得力もなくひたすら聞き苦しいものだ。

 でも、後生だからひとことだけ言わせてくれ。「聞いてないよ~」

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