「雲を見る会」
鰯雲は秋の季語である。加藤楸邨がこう歌っている。「鰯雲 人に告ぐべき ことならず」
この句はどう読んだらいいのだろう。推理してみる。作者には胸に思いがある。しかしそれは軽々に人に告げることではない。一人胸のうちにそっと秘めたままにしていたのだが、あるとき旅にあって大空を見上げたら、紅葉の秋の山々を突き放すように鰯雲がある。白く凜として冴え渡っている。愛憎に明け暮れる人間などを寄せ付けない高邁な気性を感じ取って、一気に秘めた思いを吐露してしまった。「ことならず」という断定表現は、撥ね付けるような一種言いようのない拒絶にも聞こえてしまう。
まあ、読み方は色々あっていいだろう。
鰯雲は高度5000m~10000mの上層に生まれる雲。斑状にして群れをなしている。鯖雲とも鱗雲とも羊雲とも呼ばれる。秋に多い。空一面に列状に広がる。この雲がたなびいたら、海の漁師さん方は鰯大漁を予兆して沖へ出て行く。夜になってこの雲が月の光に照らされるとまたもう一つの美しさが加わる。秋の楽しみは様々あるが、頭上に広がる雲を眺める楽しみも、堂々の位置を占めるだろう。秋はともかく空が高い。澄んでいる。
「雲を見る会」なんてのがどこかの市町村に発会していないだろうか。場所は秋桜の丘の上。時折雲に詳しい理科の先生の解説が入る。 ゆっくりぼんやりと大空を眺めているのもいいかもしれない。湧き起こる思いを告げ合って互いに波長同調していれば、俗に言う「愁い多き秋」を余所目に見ていられるかもしれない。
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