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ぬえの能楽通信blog

能楽師ぬえが能の情報を発信するブログです。開設16周年を迎えさせて頂きました!今後ともよろしくお願い申し上げます~

『邯鄲』、終わりました~

2012-11-16 11:16:10 | 能楽
『邯鄲』、昨日勤めて参りました。台上の「楽」も、空下りも、台への飛び込みも、まあまあ。。もっと若い頃、20代の頃の身体の動きには戻れませんけれども、まずまず大過はなく勤められたと思います。個人的には面の表情を割と引き出せたのではないかな、と思っています。

面については稽古段階からずっと迷っていました。結果的にオーソドックスに「邯鄲男」になったのですが、これ、申合の際に決めた面ではなかったのです。師匠は最初に「邯鄲男」を勧めてくださったのですが、ちょっと思うところあって。。弟子の分際ながら「若男」を所望し。。ところが、それからずっと ぬえは考えていまして、ついに当日の朝に師匠家に伺って。。ご迷惑ながら 再び「邯鄲男」に戻して頂いたのでした。稽古の段階から装束や面を細心にシミュレートする ぬえには珍しいことでしたが。。やっぱり当日になってからの変更はご迷惑でしたね~

装束は師家所蔵の、ちょっと趣味の良い紫地と金の横段の法被と、紺地の石畳と七宝の入った厚板がありましたので、これは以前から狙って (^_^; 拝借させて頂きました。全体的には地味な中にも品がある装束と思います。

子方は、この日の番組が『忠度』と『邯鄲』で、ちょっと女っ気がなかったので、先輩のお勧めもあって女児という設定に致しました。男児の舞童とほとんど装束は変わらず、大口に長絹の姿で、わずかに風折烏帽子が垂髪(すべらかし)に替わる程度の差なのです。が、本来は女児であっても長絹は前後を折り込んで腰帯でおさえる、いわゆる「男長絹」の着付けをするところ、楽屋で装束を着付けている様子を見ていると、『羽衣』のように長絹を羽織るだけの、女性役の着付けも似合うかもしれない、と考え直して、師匠のお許しを得てそのような着付け方に急遽変更しました。

台上の「楽」の舞い方や「空下り」のコツなど、今回は技術的に難しい能だったゆえに、いろんなアドバイスを先輩から頂戴しました。周囲も ぬえのことを心配してくださったのですね。

分けても。。師匠のご長男・ご次男の若先生方お二人には、折に触れアドバイスを頂きました。それで ぬえも甘えて、研究のためにご次男の若先生が『邯鄲』を上演された際の映像を拝借したのですが。。これが超絶技巧の『邯鄲』で驚愕! 今から10年以上以前の上演で、そのとき ぬえも地謡を謡っているのですが、『邯鄲』は地謡座からシテの型はほとんど見えないためか、失礼ながらそのときの印象は ぬえの中にはありませんでした。映像を見ても身体のシャープな動きは鮮烈だったので、実際のお舞台は素晴らしかったことでしょう。今回の ぬえは、悔しいけれど、これを凌駕するのは不可能かも。。? という点からスタートしてしまった。それでもこういう良いお手本が身近にあったのは幸せなことです。若先生の工夫を ぬえもだいぶ盗み取りましたし、その事をご本人に告げると、笑って、それこそ それ以後は会うたびに多くの助言を頂きました。今回の実質上の ぬえの「師匠」はこの若先生でしたね。ときには「あの~、ここのところが出来ないんですけど~(^^)V」「ああ。。そこは稽古の経験。。僕は1年掛けて稽古しましたから。。」「。。ありがとうございました。。(T.T)」ということも。。

あとは。。ちょっとアクシデントが多い舞台となったのが残念ではあります。。とはいえ人ごとではない。ぬえも責任感を忘れない能楽師でありたい。