ぬえの能楽通信blog

能楽師ぬえが能の情報を発信するブログです。開設16周年を迎えさせて頂きました!今後ともよろしくお願い申し上げます~

狩野川薪能、大成功で終了しました!(その3)

2008-08-27 02:17:19 | 能楽

武士と小四郎 武士=健人、真央、瞭、克、楓、礼智、小四郎=千早

一方地謡はというと、これが不思議なメンバーだったですね~。毎年地謡には4年生の子に勤めさせます。もとより「狩野川薪能」では参加者を各小学校につのるのに、4年生以上を対象にして募集しているので、地謡は参加者の中では最年少組ということになります。

ところが、参加者の中には弟や妹がいる子もあるわけで、その弟や妹がお兄ちゃんやお姉ちゃんがお稽古しているのを見て「ワタシもやりた~い」と言い出すのです。(^◇^;) これは諸手をあげて歓迎して、「子ども創作能」の地謡だけではありますが、薪能に出演して頂くことにしています。その結果今年は。。小3が2人、小2がひとり、という、近年になく若い地謡になりました。もっとも、小学校を卒業して中学生になってもまだ薪能への参加を希望する子もまた多くいて、彼らの人数は今のところ増える一方。彼らには「子ども創作能」の地謡のリーダーになってもらっていますから、彼らを入れて考えれば、薪能もだんだんと少子高齢化の波が襲ってきているわけではありますが。(^◇^;)

さて若い地謡はどうなることやらなあ。。と思って稽古を始めたのですが、これがっ! その小学2年生の女の子。。綾ちゃんが一番大きな声を出して謡ってる。。う~~ん。。これは。。どういうことだろう。



地謡 後列=悠希、明日香、ありさ、ひかり、圭恵、夢知、彩花
   前列=立夏、将人、瞳偉、亜里沙、百恵、まり菜、珠里、綾

おそらく、まだお年頃になる前で、恥ずかしさの気持ちがあまり出てこないで、力いっぱい物怖じせずに謡えるのですね。ただ、綾ちゃんの場合はそれだけじゃなくて、地謡の文句も、囃子に合わせて謡う間も、どちらも正確なのです。ふむ~~。稽古でも、地謡が文句を間違えたり、謡い出すタイミングが間違っていたりすると、いつも綾ちゃんが大声を張り上げて修正する、という、綾ちゃんが地謡のリーダーのような状態がずっと続きました。というか、こちらも武士の役と同じく、長いこと声を出させるのに散々苦労しましたですね。。通し稽古をする段階になっても、どうも声が出ない。。稽古を始めて数分で「はいやめ。声が出てない。もう一度最初からやり直し」なんて事もありました。しかし薪能が近づいてきた頃にはみんなが発奮してきたのか、声の大きさに関しては問題はなくなりましたです。やっぱり責任感と、それから舞台度胸ってものが芽生えたんでしょうか。

舞台進行では、安千代役の真澄ちゃんが、舞台の設営が完成した薪能当日の最終リハーサルでかなり緊張していて、声を出そうと思うあまり無理をして、何度も咳き込んでいましたが。。本番では見事に勤めました。本番だけミスをしない、って子、いるんですよねえ。ぬえも本番の舞台ではミスはしない人なんですが、それでも申合ではかなり後見を冷や冷やさせてしまいます。お客さまを目に前にしてキレることができる。。変な言い回しですが、そんなことも成功のひとつの条件じゃないかな、と思う ぬえでした。

で、創作能の題名になっている小四郎ですが、今年は6年生の千早ちゃんが勤めました。彼女のお母さんにはもう何年も薪能の細々とした作業を黙々とこなしてくれて、大変お世話になっていて、今回千早ちゃんが小四郎の役を勤められたのはよかったと思います。

で、小四郎の役には ぬえが、本当に矢を射るシーンを作ってあって、これがこの創作能のクライマックスでもあります。地謡の文句に合わせて矢をつがえ、射るので、失敗は許されない難しい役です。思い出すなあ。4年前に、今回の大蛇役の隆貴くんのお姉ちゃん、春奈ちゃんが、矢をつがえたところで、どうしたのか矢が弓から外れてしまって。。地謡の後見役を勤めていた ぬえは心臓が止まりました。。でも春奈ちゃん、あわてず騒がず、もう一度矢をつがえなおして、地謡の文句とはほとんど遅れることなく見事に矢を放ったのでした。うん、しっかり稽古が積まれていればアクシデントには対処できる。小学生ながらそういう鉄則を証明して見せたのでした。

今年は千早ちゃんは落ち着いて矢をつがえて。。そうして放った矢は、あろうことか、舞台の後ろに松が描いてある幕に突き刺さるように当たりました。野外の舞台であれば相当な飛距離でしたね~、すごいすごい。