ぬえの能楽通信blog

能楽師ぬえが能の情報を発信するブログです。開設16周年を迎えさせて頂きました!今後ともよろしくお願い申し上げます~

絢爛豪華な脇能『嵐山』(その13)

2008-08-14 01:46:04 | 能楽

今日は ぬえが師匠に『嵐山』の稽古をつけて頂きました。前ツレの九皐会のKくんも、もちろん子方の チビぬえも、そして綸子ちゃんもちゃあんと参加しての稽古です。綸子ちゃんはこの日のために、お母さんに連れられて伊豆から東京にわざわざ出てきてもらいました。ロマンスカーで来たらしい。(^.^)

綸子ちゃんのお稽古の成果を師匠に初めてお目に掛ける機会で、ぬえも心待ちにしておりました。結果、師匠からは特に直されることもなく、合格点を頂けたようです。ぬえはあちこち直されましたけれど~。先輩も地謡と囃子のアシライに参加してくださり、書生さんも準備やらに奔走してくれて、綸子ちゃんもいよいよ本格的に能楽師に交じっての稽古が始まったわけですけれども、気負った風もなく、緊張でガチガチということもなく、普段の稽古通りの成果を。。というよりも、いつも伊豆の国市の市民会館のホールに、マイクスタンドを並べて舞台の広さを区切って稽古している あの略式の稽古から見れば初めて能舞台で稽古を受けたにしては。。舞台の広さの感覚をよく身につけていて、不思議にうまい立ち位置の取り方をしていたのには感心。あれも研究の成果なのかしらん。

師匠の稽古が済み、『嵐山』もあとは申合を残すのみとなりました。ああ、あれほど長く稽古を続けてきたと思ったのに、もういよいよ来週には薪能の本番が来てしまうのね~。

さて結局、今回の薪能では子方二人に「天女之舞」を相舞で勤めさせることにしました。まあ短縮バージョンで、「三段」と呼ばれる全体で四段の構成の本式の舞ではなく、二段構成に編成し直して勤めてもらうことにはしたのですが、それでも、やっと「下リ端」の譜を覚えたばっかりなのに、今度は「天女之舞」の笛を覚え直さなきゃならない子方たちは。。ご愁傷様でございました。m(__)m

覚えるのは大変ではありましたでしょうけれども、でもさすがに「下リ端」「渡り拍子」で「左右」「打込」「サシ廻シ」「ヒラキ」などの舞の基本の型をほとんどすべて網羅して覚えた(。。こちらの方がよっぽど大変だったと思うけれど。。)ので、舞の稽古は順調に進んで、あれよあれよと「天女之舞」も出来上がった、という感じです。その記憶力を ぬえにくれ。

『嵐山』のツレ(子方)が現れ「天女之舞」を見せる意味は、中入前の前シテ(子守明神の化身)がワキに対して「夜の間を待たせ給ふべし」としか言っていないことから不分明ではありますが、前シテの登場の部分のサシに、帝が千本の桜を植え移したことを「これとても君の恵みかな」と言っていて、間狂言がワキの勅使に参詣のお礼を言い、「三段之舞」を見せることから、勅使、つまり帝からのメッセンジャーに対してのもてなしのようなものでしょう。

ところが後ツレ(子方)の詞章を見るかぎり、二人はひたすらに嵐山の風景を愛で、それに興じて「神遊び」を見せているばかりですね。まあ、泰平の御代で安心して神も降臨し、満開の桜の時期に花に戯れる。。言葉を返せば満開の桜が泰平の象徴であり、神とても神孫たる帝王の善政のもとでそこに遊び戯れ、神の世界の楽しみを謳歌できる、という表現なのでしょう。

日本の神は「荒ぶる神」である一方、婚姻もし、ケンカもする、とっても人間的な存在です。欲界にある天人には五衰というものもあり、桜を守護する子守・勝手の明神は花に戯れ舞を舞う無邪気な存在として描かれているのでしょう。

画像は伊豆での稽古の際に能楽写真家の山口宏子さんに撮って頂いたもの。ぬえ、気に入っています~