ノエルのブログ

シネマと海外文学、そしてお庭の話

太陽がいっぱい

2013-08-27 20:21:20 | 映画のレビュー

Photo


懐かしの「太陽がいっぱい」である。アラン・ドロンも、今では八十歳を越えるおじいさんになってしまったが、この時は芳紀(?)25歳の、水もしたたるばかりの美青年ぶりであった。真っ青な地中海、そこを航海する美しいヨット--舵輪を力いっぱい振るドロンの映像が、今でも目に焼き付いている。

とにかく、映像が美しい。撮影の名手、アンリ・ドカエの映し出してみせるイタリアの町の風景と海の青さは、絵画以上の美しさである。 ストーリーはあまりに有名だから、ここで言うのはヤボというものだろうけれど、はしょって言わせていただくと、アメリカから金持ちのどら息子フィリップを連れ戻すよう、彼の父親から依頼されたドロン演ずるトム・リプレーは、イタリアにやってくる。 彼が感ずるフィリップが代表する特権階級への憧れと、屈折した劣等感・・・フィリップから数々の屈辱的な振る舞いを受けながら、暗い微笑を浮かべるドロンの演技が凄い。おそらく、トムの感じていた気持ちは、当時のドロンには親しみ深いものであったはず。

とうとうフィリップを殺し、口封じのために、フィリップの友人も殺す。完全犯罪をもくろむトムがホテルの部屋で、筆跡の練習をするところが面白い! 大きな声では言えないが、ミステリー物語で、殺人犯人を応援したくなったのは、この時だけである。 フィリップの恋人マルジュにも言いより、美しい彼女を陥落するのでもあったが、このマルジュを演じるのはマリー・ラフォレ。憂愁を帯びた大きな目と、小麦色の肌が魅力的な女優であったけれど、後年中年になった彼女を見てがっかりしたことがある。 なんだか、頬骨のごつさが目立つ、オーラが消えかかった女性になってしまっていたのである。

   Photo_2


 ラスト、太陽の陽光がいっぱいに降り注ぐビーチで、満足そうにチェアに横たわるトム。彼のもとに警察がやってきて、カフェの女主人に彼を呼ぶよう、指示する。何と、行方不明を装うため、必死で画策したフィリップの死体はロープにからんだまま、ヨットに結び付けられていたのである。待っているのは、無残な破滅とも知らず、にこやかに笑いながら、立ち上がるトム・・・ここで、映画は終わる。  こんなに見事なラストを、私は今まで見たことがない。

 ここに描かれた、風光明媚なイタリアの風景、白い家、残酷なまでに輝く地中海。 それは、死の罠のような魅力だ。そして、ドロンの冷たく、華麗に輝く青い瞳が、あなたを惹きつけて離さないだろう。


コメントを投稿