虫干し映画MEMO

映画と本の備忘録みたいなものです
映画も本もクラシックが多いです

河内カルメン(1966/日本)

2006年09月25日 | 映画感想か行
監督: 鈴木清順
出演: 野川由美子   武田露子
   和田浩治    坂田彰
   川地民夫   高野誠二
   宮城千賀子   武田きく
    伊藤るり子    武田仙子
    松尾嘉代   雪江
    佐野浅夫   勘造
   嵯峨善兵   斎藤長兵衛
   桑山正一   不動院の良厳坊

 河内の娘露子は、村の悪たれたちに暴行され、母は近くの破戒坊主と浮気という有様に、家を飛び出して大阪でキャバレー勤め。そこで彼女は美貌を武器に生きていく…

 鈴木清順のぜんぜんわけが分からなくない、ストレートでスピーディーでパワフルな映画。
 特典映像の当時の予告編には一応「女の出世物語」みたいな字幕がバーンと出ますが、ちょっと違う。
 ファーストシーンが野川由美子の自転車の上で動くヒップです。実にかわいい野川由美子で、「殺し屋」の時のいつもどっか不満!という顔とは大違い。その純朴でかわいい、働いている工場のお坊っちゃんに恋心を抱くやまだし娘がひどい男遍歴を重ねる話。ほんとにひっどい。

 まず村で輪姦される。
 母親は父親を家にもいれずに近所の坊主と浮気。
 大阪では酔って眼が覚めたら客と連れ込みにいる。
 その客は彼女に入れあげて使い込みをした挙句に首になり、ヒモ生活。
 モデルになって、上役のレズの相手にされそうになる。
 初恋の彰とも再会するが、山師になっており、彼の温泉発掘の資金のために金貸しの妾になり、ついには彰と今で言うAVを撮らされる。
 金貸しも彰も死に、故郷へ帰れば父は死に母の浮気相手の破戒僧が妹を毒牙にかけている。
 
 実に実にひっどい話なのに、ズルズル暗いところへ引きずられる感覚がまったくない。
 溝口健二の「雪夫人絵図」もひどい男に翻弄される女の話なのに、何でこんなに違うのでしょう。どっちも不幸のたびに主人公が美しくなっていきますが、かたや雪夫人木暮美千代は生命を削る如くにはかなさを増し、こちらは不幸に鍛えられるが如くに輝いちゃう。陰影濃い画面だというのに、野川由美子はいつも汚れをよせつけない様に翳りなく美しい。思うに、露ちゃんは「これがすき」「これはいや」などの感覚を決して人の判断に委ねない。彼女の根幹が崩壊しないのはそのせいだろうか。
 ひどい男揃いのうえに、お母さんも迫力ありすぎ。しかし、ここまですごいと「香華」(有吉佐和子原作、木下恵介監督)のような愛憎劇とは無縁なのが「河内パワー」の源であろうか。
 不思議な付き合いをする川地民夫もへんないい人だが、佐野浅夫は、こちらが歳を重ねるごとになんか泣けるようになる…