こちらは新潮文庫版表紙。堀口大学訳で、「カルメン」のほか、つぎの5編を収録している。
1.タマンゴ
2.マテオ・ファルコネ
3.オーバン神父
4.エトリュスクの壺
5.アルセーヌ・ギヨ
堀口大学訳が悪いというのではないが、わたしとしては岩波の杉捷夫訳が格上だと考えている。漢文脈ふうというほどではないが、ややストイックなコクのある渋い味わいを愛する。杉さんが訳したメリメ「トレドの真珠」などは絶 . . . 本文を読む
岩波文庫から「読みやすくなった岩波文庫/創刊80周年記念」と帯がついた改版が刊行されたので、久しぶりに「カルメン」を読み返した。はじめて読んだのがいつだったか、はっきりした記憶はないが、これまで持っていた岩波文庫の奥付を見ると、1997年とある。それ以前にも、一度読んでいるはず。しかし、記憶がさだかではない。
いちばんはじめにメリメを意識したのは、三島由紀夫の「文章読本」であったのははっきり覚 . . . 本文を読む
文豪といわれて、だれを思い出すだろうか?
漱石、または鴎外をあげる人が多いのではないか。文学に関心のない人のあいだでも、知名度はそうとうに高いはずである。
・東北大学創立100周年記念
・朝日新聞入社100年
・江戸東京博物館開館15周年記念展
会期:2007年9月26日~11月18日
本書はその記念展の「公式ガイドブック」と銘打たれている。「漱石展」が開催されていることは知って . . . 本文を読む
はじめにいっておくが、この本はおいしいですぞ!漱石に関心のある方なら、ページを繰るのがもどかしいくらい味わい楽しめること請合いである。
一週間のうち、三日か四日は本屋へ散歩に出かける。この本は、その散歩の途中たまたま眼にとめたもので、数ページ立ち読みし、買うことになったのである。読みはじめててすぐ、期待以上のおもしろさだと気がついた。
ゴシップといえば「週刊新潮」や芸能誌がすぐ思い浮かぶ。作 . . . 本文を読む
吉本隆明といえば、かつてはカリスマ的な思想家、文芸評論家、詩人であった。いや、いまでも、そうなのかも知れないが、そういった知識人ふうの読書生活から長らくはなれていたから、もうよくわからない。
勁草書房から刊行されていた著作集を十数冊持っているが、「共同幻想論」「言語にとって美とは何か」などの代表作は、難解すぎて、当時もいまも、歯が立たない。ネットで検索をかけてみたら、リストはあるが、品切れ、再 . . . 本文を読む
「文学じゃないかもしれない症候群」
数十ページ読んだところで、さすがのわたしも気がついた。こういう本は、こむずかしい顔をして、最初から最後まできっちりと読むべき本ではない、と。読むには読むが、つぎの日にはもう忘れている。作者も読者も、こんなものそれでたくさん、と心得ているのだ!
そういうわけで、ひろい読みというか、斜め読みすることにした。高橋さん、自分も世間も、編集者も、たいして信じてはいな . . . 本文を読む
山本周五郎の愛読者をもってみずから任じてきたが、新潮文庫カバー裏に付された作品一覧を見て驚いた。51冊もの書名がならんでいるからである。わたしが読んだのは、そのうち20冊程度だと、いま気がついた。
長編はほとんど読んでいない。そのうち読もうと考えているうちに、ずるずる月日がたっていってしまった。そのかわり、岡場所ものや下町人情ものといわれる作品は繰り返し読んできた。「夜の辛夷」「なんの花か薫る . . . 本文を読む
あなたにとって、いちばん好きな小説はなんですか?
そんな質問を受けたとしよう。わたしはほんのちょっと迷ったすえ、「え~と、まあドーデーの『風車小屋だより』かな~」と答えるだろう。
若いころから、くり返し読んできた本、というのではない。阿部昭さんに教わったのである。岩波新書に「短編小説礼賛」があるのは、小説好きならご存じの方も多いだろう。これはなかなかの名著で、わたしはあらためて「短編の味わ . . . 本文を読む
タニア。きみがいまどこにいるのか、おいらは知らない。
もう一度逢いたいな~、という思いと、「そこからさきにはな~んにもありはしない」という自制心がせめぎあう。
「自分をもっとさらけ出せ!」
「自分をもっとさらけ出せ!」
「自分をもっとさらけ出せ!」
だけど、さらけ出すべき自分、などないと知っている。
「自分」とは、関数のような存在なのではないか?
数値をかえてやれば、答えがかわってしまう。
さ . . . 本文を読む