二草庵摘録

本のレビューと散歩写真を中心に掲載しています。二草庵とは、わが茅屋のこと。最近は詩(ポエム)もアップしています。

酔って歩く(ポエムNO.3-90)

2020年07月08日 | 俳句・短歌・詩集
   (前橋 2014年9月)



おれがあれを探すようになったのは
いつからだろう。
あれはおれの手のなかにあったのだけれど
いつのまにかなくしてしまった。
そんなことをぽつぽつとかんがえながら

酔って歩く。

いったいどこへ落としてきたのか。
あれはピカピカ光っていたし
沈丁花のようないいにおいがした。
十代の終わりころよくやってきた
夢の大風にふたたたび吹かれ

酔って歩く。

手放してしまえば
もう二度と手に返ってはこない。
どこへいった どこへ?
断念したはずなのに 気がつくと探している。
酒をあびては とろっこてろっこ

酔って歩く。

ランボーの詩語が散乱した十九世紀パリの一隅から
ヘミングウェイがいまも釣り糸を垂れにくるカリブの海をめぐって
おれはあれを探して歩く。
罪障のようなものであるかもしれぬ。
ナイフのようなものであるかも知れぬ。

失われたもののなつかしさが
稲妻となって襲い 豪雨を降らす。
日常生活がかすんでしまうほどの激しさで。
おれはずぶ濡れになって 
あれを探す。

酔って歩くのはあれを探すため。
泥まみれになり下着まで濡れらしてしまったから
酔わずには歩けないのだ。
昭和二十年代生まれの 湿っぽい鼻歌
それを歌いながら キンギラギンギラ

酔って歩く。

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