二草庵摘録

本のレビューと散歩写真を中心に掲載しています。二草庵とは、わが茅屋のこと。最近は詩(ポエム)もアップしています。

不可解な人物

2012年06月19日 | Blog & Photo

世の中には「不可解な人物」としかいいようのない人がいる。
不動産業をしていると、多くのお客様とめぐり遇う。
「なんだろう、この人。なんとも形容を絶しているね」
いやも応もなく、初対面の人物と接触し、話をしなければならない。
そういう人物と、わが町でも出会うことがある。
たとえばこれ。
クルマのフロンガラスから信号待ちで撮影したから、画質はよくない(^^;)



この人物は40歳がらまりの男性で、奇妙な自転車に乗って、いつも突然あらわれる。
過去に数回すれ違っている。自転車なのだけれど、けっこうスピードを出している。これまで二度ほど写真を撮ろうとおもいながら、チャンスを逸した。
東南アジアへいったら、こういうデコレーションした自転車に乗っている人物はめずらしくないのだろう。パキスタンやインドのトラック野郎や町の兄ちゃんが、コテコテにデコレーションしたトラックや自家用車を乗り回している光景を思い出す。

このあいだ、鬼海弘雄さんの写真集「ぺるそな」(草思社 2300円+税)をとうとう買ってきた。
http://www.shomeido.jp/gallery/contents/exhibitions/exh2005/200501kikai/200501kikai.html

ここに登場する人物たちの“奇妙さ”“奇怪さ”は、ほかにちょっと類例を思い出せないようなものである。
撮影地はすべて浅草。
・コーン・フレークを袋ごと鳩の群れにやっていたひと
・手に白粉を塗っている、礼儀ただしい青年
・左手でも撮れるというカメラをようやく見つけたというひと
・四十八回、救急車で運ばれたと語る男
・啄木と一葉が好きだという文芸のひと

一枚一枚のポートレイトに添えられたキャプションが、また絶妙である。
浅草を舞台にしたこの人間図鑑は、これまで何回かリメイクされた鬼海さんの代表作で、写真賞をダブル受賞している。
以前「東京ポートレイト」という写真展のためのガイドを買ったが、わたしが手に入れたのは、浅草ポートレイトシリーズの増補普及版。
カメラはほぼすべて、ハッセルブラッドと80mmF2.8のプラナーを使用、モノクロームなので、ドキュメンタリー的味わいをたっぷりとふくんでいる。

この写真集からなんとなく連想したのは、ドストエフスキーの「死の家の記録」であった。
ドストエフスキーのこの作品はまるでダンテの「神曲」、あの地獄編のようなおもむきがある。
鬼海さんは、浅草を往来する群衆の中から、とくに好んで「奇妙な」あるいは「奇矯な」人物を選び抜いているわけではあるまい。
しかし、よく見ていくと、どの人物も「普通」ではない。
「ぺるそな」は、人間っていったいなんだ・・・という問いを突きつけてくる。そういう意味で、「神曲」や「死の家の記録」を連想するのである。まあ、バルザックの「人間喜劇」を思い出してもいいのだけれど(笑)。

この写真集は、ポートレイトの新境地を開いた傑作写真集として、高く評価されている。わたしもそれに、異論がない。鋭利な匕首を喉元に突きつけてくるような・・・とでもいったらいいのだろうか。無名者の群れのなんという不可解な人物像。
「人間とは、いったい何だ?」
こんなベタな質問をまともに突きつけてくるような写真集の“凄み”に、わたしはあらためて圧倒されている。

ところでtopにあげたのは、サントリーウィスキー「山崎」。
ロサンゼルス在住の娘から、父の日に贈られたもので、撮影したのはわが家の階段室。
外に裏の作業小屋が見える。

コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 花影 | トップ | 何が写っているかではなく、... »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。

Blog & Photo」カテゴリの最新記事