二草庵摘録

本のレビューと散歩写真を中心に掲載しています。二草庵とは、わが茅屋のこと。最近は詩(ポエム)もアップしています。

螺旋形の思考 ~追悼吉田秀和

2012年11月27日 | Blog & Photo
吉田秀和さんの思考は、直線的ではない。あえていえば、螺旋形。ある一面からだけ眺めると、一カ所に立ち止まっているようで、しだいにことばの深みへと、あるいは高みへと、読む者をつれていく。今年5月に新聞で訃報に接してからしばらくたって、わたしには吉田さんを読むきっかけとなった「レコードのモーツァルト」(中公文庫)を引張り出し、半分くらい読み返した。吉田さんの文章は司馬遼太郎さんの文章のように、ゆっくりした回転運動をしながら、徐々に対象の核心にせまっていく・・・そういう文体の持ち主であった。くり返し、あるところに立ち戻っていく。そして、そのたびに、思考は少しずつ深まりをみせて、読者を引き寄せてはなさない。モーツァルトやベートーヴェンやワーグナーは、若い吉田さんを捉えた至高の存在であり、他に比べるもののない根底的な価値の源泉だった。そこへくり返し、くり返し立ち戻ってゆく。そういう生涯であったのではないだろうか . . . 本文を読む
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