「園のお友だちがみなしっかりしているせいか、何をするのも自信がない様子です」
という相談をいただいていた年中のAくん。
集団での活動にうまく参加できないことが多々あるようで
園の先生から指摘を受けているという話でした。
虹色教室に着いてしばらくの間、Aくんはゲームや工作に誘うと
尻込みして「うーん」「できない」とつぶやいて
もじもじしていました。興味を持ってやりはじめても、少しでも手間取ると、
お母さんや周囲の評価をうかがうような視線を投げて、
スーッとその場を離れていました。
仲のいい友だちがみんなひらがなが書けるので、
「Aくんひらがな書けないの?」「Aくんできないの?」とたずねるそうで、
ひらがなを見るだけで顔をひきつらせて、強い拒否反応を示していました。
最初のうち、活動に誘いかけても乗り気ではなく、ちょっと参加すると興味を失って
うろうろしていたAくん。でも、いっしょに時間を過ごすうちに、
それまで見聞きしていたAくんの姿とは別の一面が見えてきました。
誘う
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いやいや参加する
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すぐに飽きて別のことを始める
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しばらくすると戻ってきて、最初の活動(特に工作)がやりたいという
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自分なりのアイデアや「こういう風に作りたい」「これが作りたい」という
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そうして自分発でやりたがったことは最後まで熱心にやり抜く
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「もうひとつ作りたい」「これもやってみたい」と次にやりたいことに思いが膨らむ
レッスンの間に、Aくんは知的な課題にも熱心に取り組みたがるようになっていました。
帰り際、こんなことがありました。
次第に積極的になって、
「あれが作りたい」「あれもこれもしたい」と言っていたAくんが
教室にあった筒を見つけて、「これで作りたい」と言いました。
「教室は終わりの時間だけど、その材料は持って帰っていいよ。
袋に入れてあげるから自分で持ってね」と言うと、Aくんは筒を手にはめてみて、
ああしようかな、こうしようかな……と自分の思いつきを興奮した口調で話しながら、
「ふたつ持って帰ってもいい?」とたずねました。
Aくんに「持って帰っていいよ」と答えたのですが、
Aくんのお母さんは恐縮した様子で、
「ふたつはやめておきなさい。ひとつだけ」とAくんを説得していました。
「いいですよ。作りたいものがあるようだし。帰りに荷物にならなかったら、
どうぞ持って帰ってください」と言いました。
「ひとつにしなさい」とお母さんに何度諭されても、Aくんは、
「ふたつとも持って帰って、こういう風にして作りたい」と熱心に言い続けていました。
普段、やりたいのかやりたくないのかはっきりしない
遠回りな意思表示が多いAくんにすると、本気さが見える瞬間でした。
が終いに、教室に着いた時見せていた、優柔不断で自分に自信がないような
態度に戻って、もごもごと口のなかでつぶやくように「じゃぁ、ひとつでいい」
といいました。いかにも不満そうです。
でも、自分の言い分を通すほどの熱意もなさそうです。
すると、それを見たお母さんが、「じゃあ、持って帰るのやめておいたら?」と、
提案しました。
お母さんとしたら、グズグズ聞き分けがなかったAくんが
ひとつ納得しかかったところで、ここは、大人の言うことをちゃんと聞いてくれそうな
チャンスだと感じたのかもしれません。
引っ張りますが、次回に続きます。