しっかり泣けるように わがままが言えるように(2歳7ヶ月の子のレッスンから)2
の続きです。
帰り際になって、★くんは、この日、ゴミ収集車に見立てて遊んでいた警察の護送車で遊んだのが
楽しくてたまらなかったようで、
「この車持って帰るー!」と言いいながら車を抱え込んでいました。
「それは教室のだから置いていこうね」と言っても、
「★くんのー」と言い張ります。
こうした自己主張にしても、反抗にしても、
★くんにすると本当にめずらしいことです。
お母さんが優しい口調で説得に入ると、
★くんはたちまち、エッ、エッ、と嗚咽を漏らして
泣き始めました。
といっても★くん、反抗にしても、泣くのにしても、
これまでほとんど自分の我を通した経験がないためか、
まるで心にもない演技でもしているように弱々しいのです。
そこで、優しく説得していたお母さんが、
「それなら置いていくわよ」と優しい口調で付け加えて、
立ち去る真似をしようとしました。
すると泣きかけていた★くんの顔面が蒼白になって、
そのまま放心したような無表情になって
涙を引っ込めかけました。
わたしは慌てて、★くんのように見捨てられるのではないかという恐怖心を持っている子には、
「置いていくわよ」は絶対、禁句で、
真似ごとでも立ち去るふりをしてはいけない
と伝えました。
すると、★くんのお母さんはとても驚いて、
「いつもごねかけたら、置いていくわよ、と言って脅していました」と
おっしゃいました。
★くんのお母さんはいつも穏やかに優しく子どもに接している方です。
「置いていくわよ」のひとことで、★くんがあんまり簡単に言うことを聞くものですから、
強く叱らずに済んでいい、と思っていたのかもしれません。
わたしは★くんが弱々しく嗚咽を漏らしながら、
蚊の鳴くような声で自己主張するのを見て、
まず自分の気持ちをしっかり表現させてあげたいと感じていました。
それが、★くんのお母さんは、大人の言い分で言いくるめるようにして
泣くのをやめさせようとしてしまいます。
おそらく★くんが悲しそうな姿を見るのが
いたたまれないのでしょう。
でも、★くんは普段から、「こうしたい」「ああしたい」という自分の要求を外に出す子ではなく、
おそらくそうした自分の内面から湧き上がる強い思いを感じた体験自体が少ない子でしょうから、
めずらしく自分の我を通しているこのチャンスを逃す手はないのです。
わたしはお母さんの言葉を制止して、もう少し、★くんの自己主張に
つきあうことにしました。
今は、「こうしたいの!」と主張させ、、「そうだね、その車が好きなのね。
ゴミ集めして面白かったもんね」と、しっかり気持ちを受け止めてあげて、
「でも教室のおもちゃだから、残念。バイバイしてまた今度遊ぼうね」と言って
泣くなら、泣きたいだけたっぷり泣いて、お母さんにだっこされてなぐさめてもらう
必要があるのです。
そこで「もし、★くんが持って帰ったら、お友だちが遊べないでしょう?うんぬんうんぬん~」と
長々と大人の世界のルールをくどくどと言って聞かせて、
主張も涙も引っ込ませてしまうようなことを
してはいけないはずです。
2歳児には2歳児への
諭し方があるはずですから。
欲しくてたまらない思い、楽しくてたまらなかった記憶、家に持って帰ってずっと遊びたいという気持ちが、
心に渦巻いているのです。
泣いて、泣いて、なぐさめられて、
そうした気持ちを乗り越えるだけで精いっぱいなのです。
そこで、ここにいないお友だちの気持ちまで
想像してみなさい、などと説得するのでは、
大人と子どもの力関係のなかで
無理矢理、まだ生まれて2年ちょっとしか経っていないような子の
弱い側の意見をひねりつぶしてしまうようなものです。
子どもの成長にゆっくりゆっくり付き合って
あげたいですね。