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無駄な抵抗

2023-12-10 21:07:15 | 舞台
久々に演劇の醍醐味を味わわせてもらった。

さすが、ニュータイプ前川氏!今回もしてやられた感満載!

ぶっちゃけ、途中まで、理解不能というか全く言葉が降りてこなかった。

浜田信也さん、松雪泰子さん、池谷のぶえさん、 清水葉月ちゃん、盛隆二さん、森下創さん、大窪人衛君の存在があまりにも謎すぎて、その反面、安井順平さん、渡邊圭祐君、 穂志もえかちゃんはそのままだったこと、

電車が止まらなくなった駅前の閑散とした広場の設定のはずなのに、舞台空間の面積からしても狭いと想像してしまう広場で会話をしている登場人物と、それ以外の人物が同時に存在していると、会話を盗み聞きしているのか?いないのか?そもそも、そこに存在しているのかいないのか?広い広場と見立ていて遠くにいると示唆しているのか?

さっぱり分からない。

電車が止まらない駅なのに、廃駅ではない。もちろん駅員はいない。だが、自動改札は通常通り動き、電車通過のアナウンスが流れる。一体、誰のために必要とされている駅なのか?何を象徴しているメタファーなのかも分からない。

登場人物も、なんの象徴として、メタファーとして存在しているのか?

そもそも、誰が主人公なのか?誰の存在を主軸として観るべきなのかも分からない。

ミステリー特有の謎解きの謎すらみえてこない。あ、人物の存在理由の謎とは別のもの。今思い返すと小さな謎がたくさん散りばめられていたが、主軸となる大きな謎が見えてこなかった。

前川氏は何を伝えようとしているのか?頑張って理解しようと、メッセージや言葉が降りてくるのを待っていたが一向に降りてこない。

っていうか、降霊術ならぬ降メッセージ術で無意識にメッセージや言葉を降ろそうとしている私自身に驚いたよ!マジ、客席頭上の天上からメッセージが降りてくるのを待ってたよ!(笑)

このまま降りてこないんだ〜、前川氏が何を伝えようとしているのか分からず終わってしまうんだ〜と諦めた時、池谷さんがお母さんからの手紙を読もうとする前で、

メッセージが滝のように降ってきた。そういうことか!?と、ああ!と言葉が漏れ出てしまった。

最後のピースがやっとはまったカタルシスではなく、暗号が解けて全ての謎が一気に解明出来たカタルシス。ドミノの最初のコマを倒し、そこから四方八方にコマが波のように倒れていき、最後に1つの絵を作り上げる感覚だった。

前川版オイディプス王の風味だけでなく、めちゃくちゃタイムリーに世情を反映した脚本になっていた。

性被害者側への応援讃歌ともとれる、被害者側の抗えない運命に立ち向かう勇気に対して背中を強く押すメッセージ性となっている。

抗いながらも我慢を強いられてきた人達に対して呪縛から解放するためのメッセージ。

背中を押すと言っても、勇気を奮い立たせるためでもあるのが、一歩間違えるとプラットフォームから突き落としかねない背中押しでもある。

同じ勇気ある決断も実行も、生と死のギリギリのライン上に立っていることには違いない。

世情には必ず賛成派と反対派がいる。反対派の意見に押しつぶされることも多々起こりうるから。

抗えない運命に対して、抗いもがきながらもじっと耐え続けるのか、それともダメ元で抗い抵抗し戦うかは、自分自身の選択と覚悟次第である。

言葉が降りてきた瞬間に、性被害問題だけでなく、トラウマという呪縛の恐ろしさ、ここでは幼少期に友達の何気ない一言が、何十年経っても呪縛として心に刻まれ人格形成の発端になってたこと。

これはまさしく私自身にほかならない。私の場合は、友達の一言ではなく親父の一言。蛙の子は蛙、だった。

お酒を飲むと豹変し、家族に暴力を振るう父親の姿を見てきて、自分はこんか大人にはならない、結婚してもこんな親にはなりたくないと心に誓って生きてきた。

結婚しても私と同じ苦しみを味わわせるなら子供はいらないと思ってきたが、自分の中に親父の片鱗を感じた瞬間に、結婚願望は完全になくなった。ストレスで暴力を振るう夫にはなりたくない。なにより蛙の子は蛙を自認することになるから。

っていうか、すでに自認したから孤独死覚悟で生きる決心をした。そもそも、こんなこと書いたら申し訳ないが、頭でも経験でも分かっているが価値観が違う者同士一緒に暮らすのは本当に面倒くさい。友達同士でも面倒くさくなること多々あるのに。私には程よい距離が必要。程よい距離といっても結構長い距離ですけどね。藁

いつものごとく、私のどうでもいい人生観を書いてしまいましたが、それくらい幼少期のトラウマや呪縛は人格形成に大きく左右すると言いたかっただけなので悪しからず。

今回も前川氏の洞察力にやられてしまった。

まさか、小さな謎が主軸だったとは思わなかった。手紙の内容ね。それに登場しない人物がキーパーソンだとも思わなかった。お母さんと大伯父ね。

まさに私の分身の役でもあった池谷のぶえさんの男役風な演技が新鮮過ぎて、さすが千の仮面を持つ池谷さんならではの演技力がめちゃくちゃ良かった。やはり、ケラさんの「グッド・バイ」での変化自在の演技っぷりが今でも忘れられない。

池谷さんって、実際何歳だったけ??と思ってしまうくらい40代歯科医のキャリアウーマンぶりがめちゃくちゃリアルだった。不思議なことに、実際は池谷さんより若い盛隆二さんがお兄さん役でも、松雪泰子さんと同級生役でも全然違和感がなかった。池谷さんもリアル北島マヤだよ!

その同級生で、幼少期に呪縛を与えたのが松雪さん。自他とも認める美人さんの役。真面目に自分で言うから面白い。まさに現代のスピリチュアルブームを象徴する元占い師、今カウンセラー役。まさしくオイディプス王に出てくる予言者的存在。真面目なのか間が抜けているのか分からないその中間的存在感がピカ一でした。

最終的には、池谷さんの一番の理解者で背中を押してあげる良い役。発言はなかなか切れ味がよいナイフのようだったが、嫌みも怖さもなく無意識にシレっと言ってしまうところが面白かった。きっと幼少期もそうだったんだろうな、っていうのが伝わるくる役作りでした。

浜田信也さんは何者?目に見える人?そうでない人?どちらとも言えない謎の人物。私にはトート的存在。世間の常識に反目する役割かな?大道芸人なのに芸をしない大道芸人。

大窪人衛君は、駅に電車が停まることを熱望するカフェの人。生活するなら移転した方がいいのに、あくまで電車が止まらない駅前で営業することを信念?として抗い続けている人。池谷さん同様、運命に従わず抗っている。

森下創さんは、近所のビル?公園?の警備員役。ただひたすら警備で歩き回ってる人。登場人物の中で一番理性があるまともな人。のイメージ。

安井順平さんは、2番目に普通かな?っていう探偵役。

穂志もえかちゃんは、池谷さん盛さん兄妹のおじいちゃんのお兄さんの孫。自分のおじいちゃんと安井さん演じる探偵との手紙の橋渡し的人物。おじいちゃんの謎に興味持っている。

清水葉月ちゃんは、お金に困ってるシングルマザー。児童養護施設に入所していた。

渡邊圭祐は、池谷さんがぞっこん中のホスト役。清水葉月ちゃん役と養護施設で一緒だった。森下創さんが捨て子だった渡邉君を拾った設定。そして、隠れキーパーソン。

浜田さん以外の登場人物が皆、池谷さんと某の形で結びついている。

そして、舞台には登場しない人物が、物語の鍵を握っている。

途中までは、さっぱりテーマも役割もメッセージも分からないので、理解出来ぬまま終わるんだと思っていたら、まるで野田さんみたいにあらゆる伏線が最後で回収される様がお見事でした。

オイディプス王のように、運命に翻弄され、抗いそして受け入れるのではなく、それでも、無駄な抵抗であったとしても戦いに挑もうとする勇気を讃える脚本だった。

ぶっちゃけ、そこに関しては、私自身狡猾な人間だから損得を考えてしまうが、現実問題として今もなお呪縛に苦しんでいる方にとっては死活問題でもある。

前川さんは、その方々を励ましたい気持ちが強いからこの脚本を書いたと推察します。

作品として、久々にカタルシスを味わえる脚本だったので素晴らしかったです。