「地獄のオルフェウス」

2015-06-13 02:28:51 | 舞台
ぶっちゃけ、全く期待してなかったけど、ラストはウルッときた。確かに第一幕の長い2時間は、う~ん???とは思ったが、第二幕で物語の根っこが見えてきたって感じやね。なかなかの問題作だと思いました。そう、この不条理な世の中が地獄なんだよ…。

ということで、大竹しのぶ×テネシー・ウィリアムズ、蜷川さん演出の「欲望という名の電車」のリベンジになるか!?は、全く期待せず、ただ東京公演の評判で観てきました。

結果的には、評判通り良かった。今、今年上演して正解!と思ったくらいとてもタイムリーな内容だったので、ラストはウルッときたと同時に怒りも込み上げてきました。

NTLの「二十日鼠と人間」と同様、黒人差別が色濃く残っていた時代背景で、「二十日鼠~」よりもっと悲惨な状況下で、何十年も魂が死んでいる状態と変わらず生きてきた年増の主人公レイディ(しのぶさん演じる)が、春馬君演じる若者ヴァルに出会ったことで、生きることに一筋の光が射し込んだのに…、っていう大雑把な粗筋ですが、

ぶっちゃけ、単純に、不倫はよくない!っていう物語ではなかったね。もっと根っこが深いと感じた。テネシー・ウィリアムズが生きていた当時のアメリカの現状を描きだした問題作だと私は解釈しました。

私は、この戯曲を読んだことも存在も知らなかったのですが、本当に本当にラストは怒りが込み上げてきた。ウィリアムズが描きだした現実は、今と全く変わりはしない。ついこの前、同じようなことが何処かの国で行われてましたよね!?散々話題になっていたのに、数ヶ月経つともう遠い過去の出来事になって忘れさられてしまうなんて…。

今も、テネシー・ウィリアムズが生きていた時代となんら変わりもせず不条理な時代です。そりゃ、自国は平和になったけど、他国はそうはいかない。まだまだ不安定だよ。

レイディやヴァルの生き様・死に様が、ある中東諸国の出来事を思い出す。

テネシー・ウィリアムズも言いたかったんだと思うよ、復讐からは何の明るい希望がないことを。本当の不条理がなんなのか分かってるんか!?って問い掛けていたんだと思う。

そう、戦争と同じなんだよ。差別で人を殺しておいて、それを正当な理由付けをしてノコノコ生きていていいわけ???レイディの抱えるバックグラウンドがあまりにも悲惨過ぎて、怒りしか湧いてこない。結局は、やられたらそのままやり返されるだけ。歴史はその繰り返し。マジで虚しすぎる…。

10年と実を付けなかった枯れかけた木と同じように、自分は年増で枯れた人間だと思っていたら、そうではないことをヴァルが教えてくれた。生きる希望をもっともっと明るい未来をヴァルがレイディに与えた。なのに…。

そのまま、レイディとヴァルが街を出て一緒に生活すればまだ幸せになっていたかもしれないけど、レイディが夫に復讐しようとしたことで、歯車が大きくズレてしまったんよね。

レイディの復讐心はよく分かる。当然の成り行きだと思う。

ヴァルもレイディに出会ったことで、本当の愛に目覚めた矢先だったのに、不倫という不条理が、更なる不条理を生む結果になってしまった。

ぶっちゃけ書くと、本当に二人が街から逃げてしまったら、作品の意味がなくなるんよね。あの結末だからこそ、ウィリアムズが伝えたいメッセージがリアルに浮き彫りにされるし、今現在にも通じる訳なんよ。結果的には、ウィリアムズ、よく書いた!と言いたくなる内容でした。ホンマ、悲しみと怒りが湧く結末でした。

レイディを演じたしのぶさんは、今回は普通に良かったです。出だしの夫と愛のない日常がひしひしと伝わってくる荒んだ表現から、ヴァルと出会ったこてで、ある意味若さを取り戻した表現が良かったです。ぶっちゃけ、第一幕はよく分からないレイディ像でしたが、第二幕でレイディの人物像が明確になったので、いろんな意味で第二幕が良かった。

春馬君のヴァルは、レイディの店に来るまでは、本当に女たらしな生活をしてたんだうな~、ギターだけが唯一の恋人だったんだろうな~という過去が見える役作りで、声は弱かったけど、雰囲気はピカイチでした。ただ、レイディへの愛はホンマかどうか疑わしかったけどね。でも、世の中、男女関係なくああいう人いるよね~。夢も希望もない日常にふと現れる神秘なる人物が!そりゃ、気持ちも揺らぐわさっていう人物がね。大概、そういう人物は皆のアイドルになってしまうから独り占め出来ない、残念なことに…。

で、この作品で一番良かったのが、水川あさみさんのキャロルでした。完全にいっちゃった狂気の役どころが素晴らしかった!ドラマの水川さんしか知らないから、あんな狂気の演技が出来るなんてビックリしました。とても良かったです。精神病の人って、本当に神様と交信してるんじゃないかと思ってしまう時があるんですが、このキャロルもそんな役どころでもあったので、違う意味でリアルな存在でした。ああいう人は、すぐ病院送りになるはずなのに、そうはならないのも時代背景やね。

ぶっちゃけ、この作品に登場する人物皆、何某の精神疾患者に私は見えた。噂好きだし、お金は盗まなくてもサンドイッチは盗むし、人間を生殺ししたり、まともな人間なんていりゃしない。

その中で、一番狂っているのが目に見えて明らかなのがキャロルなんだけど、実は、ヴァルにとっては天使だったのかもしれない役どころにも見えた。もし、キャロルの言う通りにしてたら、あの結末は回避できたかも…。キャロルが預言者的な存在だったのが魅力的でした。水川さんのキャロルは、声が舞台の声だったので、声フェチには堪らん発声でした。水川さんは舞台向きの女優さんだと思う。

三田和代さんの画家(?)役も魅力的でした。めちゃスピ要素の役どころで、“インスピレーション”を使うならまだ分かるけど、“ヴィジョン”の単語を使うところがまさにスピだなと思った。イエス・キリストの映画もそうだし、「ノア」もそうだったけど、神様の啓示は言葉でなくて“ヴィジョン”なんだよね…。なんか不思議な役どころでした。

演出的には、戯曲を読んでないので分からないですが、暗転の度に、さっき店から出て行った人物が、なんでそこにいるの!?と言いたいくらいにもう店の中にいたりと、あまりにも自然じゃない登場の仕方だったのが非常に気になった。普通は、出て行ったら、入ってくるシーンがあるのが自然なんだけど、めちゃくちゃ違和感を感じる演出?脚本?でした。

舞台が始まる前から雷を鳴らしたり、雨を降らしていたり(ガラス戸に水が滴り落ちる演出)、美術もそれなりに凝ってました。ラストは悲しいけど月の光が印象的な綺麗な演出だった。

今日はカーテンコールで、春馬君の挨拶があって、カミカミだったのがとっても愛嬌があって良かった。ファンの方から春馬人形を貰ってた。

しのぶさんも、舞台のシリアスな表情から打って変わって、水川さんと腕を組んだりとお茶目な雰囲気がしのぶさんらしいな~と思った。この切り替えの早さはさすがプロ!

今回の、大竹しのぶ×テネシー・ウィリアムズは、独りよがりの演技ではなく調和があって良かった。どっちかというと、水川さんの狂気っぷりが強烈だったから、しのぶさんの演技が良い意味で霞んだ感じだった。

今日のまとめ:春馬君は、「五右衛門×轟天」にサプライズゲストに出るのかな…?っていうか、出たのかな…?