ないない島通信

「ポケットに愛と映画を!」改め。

イン・トリートメント 3

2019-01-25 20:40:39 | 映画
(これは2017年9月29日の記事です)

前回(7・31の記事)では「イン・トリートメント2」について書いたが、今回ついにシーズン3の最後まで見たので、また少し違う視点から感想を書いてみたいと思う。

というのも、あれから私自身がカウンセリングの通信教育を受講し始め、心理学の本なども読み進むに従い、ドラマに対する疑問や影響の大きさを以前にもまして感じるようになったからだ。

それほどインパクトの強いドラマだった。

でも、結局のところ、あれを見てセラピーを受けようと思う人が増えるかといえば、増えないだろうなあと思うのだ。
セラピーなんて何の役にも立たないんだぜ、という人たちにはかっこうの材料を与えることになるだろうけれど。

これをドラマに仕立てようと考えた時点で、すごく大きな挑戦だったに違いない。
そして、見事エミー賞を獲得した。
人間というのは、他人の秘密を覗いてみたくてしかたない生き物だからね。

医師には守秘義務があるからセッションの内容を公表できない。
私たちは(自分でセッションを受ける以外に)セッションがどのように行われるのか知る術がない。
セラピストとクライエントって個室の中でいったい何をやってるの? どんな会話をしてるの? どうやってクライエントを癒してるの?
知りようがないことを知りたいと思うのは人間の常。
でもそれをドラマにしてしまうのはすごく勇気のいることだし、同時に危うさもはらんでいる。

そして、シーズン3ではこの危うさがついに表面化してくる。

ポール、危うし!!

そう、セッションは諸刃の剣なのだ。ドクターにとっても。

シーズン3の冒頭に登場するのが、インド人の初老の男性スニール。
彼はインドで妻を亡くし、アメリカに住む息子のところに身を寄せているのだが、息子の妻(アメリカ人)と折り合いがよくない。
できればインドに帰りたいと思っているが、息子は母親との約束(母親が死んだ後、父親の面倒を見る)を果たすのが自分の役目だと主張し彼をインドに帰そうとはしない。
息子の妻との折り合いは悪くなる一方だ。
ポール自身もアイルランドからの移民だったため、スニールの身の置き所のない不安定さや悲しみがよくわかり、共感を寄せるのだった。

ところが・・
(以下ネタバレになるので、これから見る人は注意)



このスニール、一筋縄ではいかない人物だった。
別に悪い人というわけではない。悪だくみをしたわけでもない。止むにやまれぬ行動をとったまでのことなのだろう。それでも、彼の言動のどこまでが真実でどこからがウソなのかよくわからないのだ。従って、見ている側にはもやもやとした後味の悪さが残る。
他に方法はなかったのか?

スニールはどうしてもインドに帰りたいと思い、ポールを利用して強制送還になるよう巧みにポールを誘導したのだ。虚実ないまぜの彼の話は実に見事で、経験豊かなポールもすっかり騙されてしまう。しかも、ポールのスーパーバイザーもこの件に一枚噛むことになるのだが、彼女は自分の責任ではないとポールを突き放す。

かくしてポールはすっかり自信をなくし、セラピストを辞める覚悟をするのだった。

最後は、街を歩きながら雑踏に消えていくポールの姿をカメラが追うのだが、彼が本当にセラピストを辞めるのかどうか、今ひとつ定かではない。

もしかすると、シーズン4の可能性も残しつつこのシーズンを終わらせたのかもしれない。

いずれにせよ、セラピーというのは一筋縄ではいかない、ということがよくわかるドラマではあった。
セラピーを受ける側もドクターの側も、両者とも無傷ではいられない。
だったら、セラピーに何の意味があるのか?

結局のところ、セラピーやカウンセリングの有効性に疑問を投げかける結末となった。
ポールのセラピーが下手だったからというわけではない。彼は非常に熱心で有能なセラピストなのだが(惚れっぽいのがたまにきず)、どういうクライエントがやってくるかは全く予測がつかない。ある意味、博打のような仕事でもあるのだなあとつくづく思った。

もう一つ。
日本人にはこの手のセラピー(精神分析と思われる)が有効かどうか、カウンセリングのテキストや心理学の本を読むたびに疑問に感じる。
日本人には日本人にあった方法があってもいいはずだが、今のところまだ西欧式の心理学やカウンセリング理論にたよるしかないようだ。だから日本ではカウンセリングが流行らないのだろうとも思った。

日本人にあったカウンセリングってどんなんだろうか。
もしかして、最近流行のヒュプノセラピーが日本人にあっているのか?
だとしたら、それはなぜなのか。そして、実際にどれほど有効なのだろうか?
疑問は尽きない。
日本人独特の心理学やカウンセリング理論が生まれる余地も十分あるので若い人たちには頑張ってほしいと思う今日この頃である。
コメント
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