ないない島通信

「ポケットに愛と映画を!」改め。

メッセージ

2019-01-09 17:39:19 | 映画
(これは2017年6月3日の記事です。「ないない島通信」の古い記事から順次面白いものをピックアップして載せていきます。たまに順不同で)

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映画「メッセージ」を見てきました。(以下ネタバレです)

テッド・チャンのSF短編「あなたの人生の物語」を映画化したもので(ドゥニ・ヴィルヌーヴ監督作品)、哲学的で少々難解です。

テーマは言語と時間、そして親子の愛。

ストーリーは、よくあるエイリアンもの。ある日、地球上の各地に謎の宇宙船(上の写真のようなレンズ型)が到着します。彼らは地球を侵略しに来たのか、それとも友好関係を結ぼうとしてきたのか・・

科学者や専門家たちはエイリアンとコンタクトしようとして、宇宙船の中に入り込みます。その中の一人が、主人公のルイーズ(エイミー・アダムス)、言語学者です。

ルイーズのおかげで彼らの言語を理解できるようになり、彼らがあるものを地球に提供したいと申し出ていることがわかってきたのですが、中国はこれを「武器」と解釈し、侵略とみなし、エイリアンを攻撃すると決定。
あわやというところで、ルイーズがその言語能力を発揮して事なきを得、彼らは地球を去っていく・・というのが基本のストーリーです。

前半は冗長で少し眠くなりましたが、後半は俄然面白くなります。なにしろ、エイリアンの言語が、まるで墨絵で描いた円みたいで、その墨の飛び散り具合がそれぞれ意味を持つ、といった、ある意味禅の世界。

エイリアンの言語は時間を跳び越えます。一度に円の中にすべてが込められているのです。
日本語だと、たとえば、こんな文章があるとします。

「私は夕べ、夢の中で、死んだ両親と再会し、いっしょに旅行しました・・」

「私」から「しました」までの間に(話すにしろ書くにしろ)数秒の時間が経過します。しかも、日本語の特性から考えると、語尾は「しませんでした」と否定形になるかもしれず、あるいは「したのでしょうか?」という疑問形になるかもしれず、いずれにせよ、冒頭の「私」から「た」までに、どれだけの時間と思いが交錯しているのだろうかと考えると、頭がくらくらしてくる・・というようなことを、常々感じていました。

ところが、エイリアンの輪っかは一瞬ですべてを語るのですね。

そして、ルイーズがエイリアン言語を習得していくうちに、あら不思議、彼女自身が時間を跳び越えてしまったのでした。

時間は流れるものではなく、すべてがそこに同時に存在する・・

というようなキャプションが流れていましたが(文は定かではありませんが)、

まさに、「今」「ここ」の言語なのです。

原作も読んでみました。原作はもっと難解です。もう一度読まないと理解できません。でも、とても重要なことが書かれていると思います。

原作ではエイリアンの言語を「曼荼羅」のようなと表現しています。

禅であり、曼荼羅である言語。

宇宙船に同乗した物理学者は「物理学の基本は時間対称性であり、過去と未来に物理的差異はない」といってボルヘス風の寓話を挿入したりしています。(原作中で)

ともかく、そんな感じでやけに難解な物語ですが、なぜか魅力的です。それは、死ぬとわかっている娘の成長やその時々の記憶がフラッシュバックのようにさしはさまれるからでしょう。エイリアンと遭遇した時点で、ルイーズはまだ結婚しておらず、子どももいない、にもかかわらず、記憶のフラッシュバックとして次々と現れてきます。それが、最後のシーンで、未来の出来事であるとわかるのです。

そして、それこそが(エイリアンと地球を救うことになる)エイリアンの贈り物。「武器」というのは、つまり「言語」だったというお話。

もう一度原作を読み、映画を見てみたいと思っています。

SF好きには非常に面白い映画だと思います。


コメント
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