「ボブという名の猫」でホームレスのジェームスについて書いていたら、昔見た映画
「路上のソリスト」(ジョー・ライト監督 2009年)
を思い出しました。もう10年くらい前に見た映画ですが、amazonプライムにあったのでまた見てみました。
ロサンゼルス・タイムズのコラムニストであるスティーヴ・ロペスが書いたノンフィクション「路上のソリスト」を基にした映画で、私は先に原作を読んでいたので原作の印象のほうが強かったのですが、映画も悪くない。実話の重みがある映画です。
主人公のナサニエルにジェイミー・フォックス、記者のスティーヴ・ロペスにロバート・ダウニー・Jrが出ています。
スティーヴはある日、路上で弦が2本しかないバイオリンを弾いているホームレスのナサニエル・エアーズに出会います。彼はかつてジュリアード音楽院に在籍していたといいます。
スティーヴはまさかと思いながらも、好奇心からジュリアード音楽院に電話して卒業生にナサニエル・エアーズという学生はいたかと尋ねます。卒業生にはいないが、入学した学生にはいる、という答えが。ナサニエルはジュリアード音楽院を中途退学していたのです。
そこからスティーヴとナサニエルの奇妙な友情が始まります。
ナサニエルはカートに積んだ寝具や日用品などの家財を引きながら街を徘徊し、夜になるとビルの陰などにマットを広げて眠ります。彼は統合失調症を患っており、幻聴に悩まされていますが病識がなく、自分が病気だとは思っていません。
スティーヴはそんなナサニエルを助けたいと思い、ロサンゼルスタイムズのコラムにナサニエルの記事を書きます。記事は評判となり、ナサニエルにチェロを進呈してくれる読者も現れます。
ナサニエルは元々チェロ奏者で、ヨ―ヨー・マと同じオーケストラで演奏していたといいます。かつては、未来を嘱望された才能豊かな若者だったのです。
スティーヴは何とかして、ナサニエルを再びステージに立たせたいと思います。
しかし、スティーヴの献身的な努力にも関わらず、ナサニエルは路上生活から抜け出そうとはせず、スティーヴを拒否し、時に暴力的になります。病気のせいだとわかってはいても、思わず喧嘩腰になるスティーヴ。
統合失調症のナサニエルは一筋縄ではいかず、ついにステージでの演奏にこぎつけたと思ったとたん裏切られるといったことが続きます。
それでも諦めないスティーヴの姿は感動的です。単に面白い記事が書けるかもしれないという動機からナサニエルに近づいた彼でしたが、やがてナサニエル自身の魅力の虜となっていきます。
けれども、スティーヴは、ナサニエルのためにと言いながら、実は自分のために動いていたことにやがて気づきます。だからうまく行かなかったのだと。そして、そこから2人の関係は新しい局面に入っていくのでした。
同時に、ロサンゼルスのホームレスたちの実態も描かれます。
当時、ロサンゼルスには9万人ものホームレスがいました。しかも、精神病院が閉鎖されたため、患者たちはホームレスとなって街にあふれていたのです。
世界有数の金持ちが住む街で、ホームレスがこれほど多いというのは驚きです。
一方、日本ではホームレスの問題はさほど話題にはなりませんが、実はホームレスの人たちの多くが精神疾患を患っているという事実もあるようです。
でも、日本ではこんな映画は作られない。実態はアメリカとさほど変わらなくても、私たちの見えないところに隠されています。
スティーヴは果たしてナサニエルを救うことができたのでしょうか。
ステージでの演奏はうまくいかなかったようです。それでも、路上生活をやめて屋根のあるところで暮らせるようになりました。
ナサニエルはチェロとバイオリンに加え、ベース、ピアノ、ギター、トランペット、ホルン、ドラム、ハーモニカを演奏する、とエンドロールにあります。そして、スティーブはギターを始めたと。
類稀な才能を持って生まれたにも関わらず、ホームレスになり路上で生活していたナサニエルは、スティーヴと知り合い友人となることで、精神疾患そのものも好転したようです。
二人は終生の友人となりました。
YouTubeで実際のナサニエルの演奏が見られるので興味のある方は見てみてください。
https://www.youtube.com/watch?v=Kjr82pzrVSY