これから書くことは、本当は「閑話」どころか深刻な「憂話」だ。
6歳まで生まれ育ったふるさとである福島県双葉郡の原子力発電所で、危機が破局に向って急展開している。
東北関東を襲った未曾有の大地震は、未曾有の大津波災害とともに未曾有の原発放射能災害を生み出してしまうのか。
大震災と共に原発危機が明らかになった11日から、僕は居ても立ってもいられないような言い知れない不安の中で日々を過ごしている。
11日から12日にかけて収集した情報から推測した最悪のシナリオに向って、事態は急テンポで突き進むばかりだ。
果たして土壇場で決定的な破局に至るのを食い止めることができるのか…。
今まとまったことを書くだけの心の余裕は、とてもない。
せめて、11日から日々歌ってきた拙歌と、身内で作っているメーリングリストに載せた短文や友人宛のメール、ブログへのコメントなどを時系列に並べ、大震災に伴う原発危機に関する僕のこの間の不安を記録しておきたい。
3月11日(金)
(23:23)
大地揺れ海の襲ひて原発の危機に瀕せる吾がふるさとよ
3月12日(土)
(0:35)
ふるさとの町から人の消えゆけり巨大地震に原発耐へず
(0:52)
Nちゃん、食器大変だったね。
僕はちょうど一人で台所にいたので、必死で食器棚の扉を押さえて、ついに東京にも来たかなと思いつつ、揺れのおさまるまで頑張ったので、食器の被害もありませんでした。
福島の従兄達は原発の3~10キロに住んでいるので、どうやらすでに避難所に避難しているらしく、電話に誰も出ません。
大事故にならないことを願うばかりです。
津波の被害も、気仙沼などの大火災の被害も、明日になればわかるでしょうが、こわいですね。
ともあれ、身近な人々が無事であったことに安心しましたが。
(16:11)
原発の件は、NHKの報道では大したことのないように言っていますが、ネットニュースでは朝日も産経も、「炉心融解」が始まった「深刻な事態」だと言っています。
しかも、朝日の最新報道では、「東京電力は12日、東日本大震災で自動停止した7基の原発のうち、福島第二原発3号機は、原子炉の温度が100度以下に下がって停止した、と発表した。原子炉を停止させることができたのはこの3号機が初めて。」となっています。
「自動停止」と「停止」は違うという報道は初めて見ました。
ということは、他の6機は、炉心冷却ができないまま「炉心融解」(=メルト・ダウン!)が始まったか、それに向いつつあるということでしょう。
「炉心溶融は、想定されている原発事故の中で最悪の事態だ。これが進むと、爆発的な反応を引き起こして広く外部に放射能をまき散らす恐れもある。」(朝日)
今はそうならないように願うばかりです。
従兄の無事は確認できましたが、従弟夫婦とは連絡できていません。
阿武隈山脈に入った川内村に避難しているのだと思います。
Yくん、原発はやっぱり地震大国では共存不可能ですね。
(16:33)
日経の最新報道では、今中哲二・京都大学助教の恐るべき談話が報道されています。
「セシウムは核燃料が過熱していないと出ない。原発の外で検出されたことは原子炉を覆う圧力容器から漏れていたと考えられ、圧力容器の一部か冷却用の配管が損傷した可能性が高い。炉心が溶融しているかもしれない。原子炉建屋の外で検出される放射性物質のレベルが急激に上がるので、それが目安になる。
過去の原子力事故としてはスリーマイル島事故と同じだ。溶けた炉心材料が格納容器の下にためている水と反応すると水蒸気爆発を引き起こす恐れがある。そうなるとチェルノブイリ事故に限りなく近づく。最悪の事態だ。
原子炉の内部に水を注入して燃料を冷やし続けるしかない。」
僕は「スリーマイル島事故」を念頭において心配していたのですが、最悪の場合は「チェルノブイリ事故に限りなく近づく」という話です。
もしそうなれば、僕の故郷どころか、東京はもちろん、日本列島全体が危機にさらされる事態です。
「原子炉の内部に水を注入して燃料を冷やし続けるしかない。」ということは、チェルノブイリ事故のときと同じように、決死隊が大量の放射能を浴びることや爆死を覚悟してそうせよということではないでしょうか。
もしかしたら、今すでに事態はその方向に向っているのかも知れません。
おそろしいことです。
3月13日(日)
(13:00)
Fさん、お見舞いありがとうございます
福島第一原発から7キロの富岡町夜の森(よのもり)という、母方の故郷で生まれ、6歳まで過ごしました。
第二原発からも7キロぐらいだろうと思います。
今は、近い親戚では従兄弟がいるだけですが、彼らも既に避難を強いられています。
今頃はゴーストタウンと化していることでしょう。
事故は、スリーマイル島事故と同様の経緯を辿っているようなので、最悪の事態にならないことを願っていますが、政府や東電の情報開示のいい加減さに強い不信と不安を感じて、正直なところ苛立ちを抑えきれない状態です。
遠い親戚は、新相馬市からいわき市まで海岸線にかなりいるので、そっちも心配です。
宮城や岩手では、万を越える行方不明者がいるという報道も始まりました。
地震・津波によるとてつもない被害に、原発放射能被害がどこまで追い討ちをかけるのか、とても不安です。
(17:35)
―<福島県立双葉高校のグラウンドで救助を待てる人らの被曝を聞きて>
亡き父のかつて教へし双(ふた)高の庭にてつひに被曝者出ぬ
3月14日(月)
(12:13)
Nさんは奥さんのご親戚の安否確認中だと思いましたし、僕は僕で故郷が福島県浜通りの福島第一原発から7キロにあり、新相馬市からいわき市にかけて親戚がたくさんいますので、テレビとインターネット情報と、メールにかじりついていました。
富岡町の従兄弟などの無事はやっと確認できました(原発事故で避難中)が、新相馬市からいわき市の遠い親戚についてはまだ分かりません。
恐らく、浪江町といわき市久ノ浜地区の親戚の家は津波で流されている筈ですが、人的被害については不明のままです。
それ以上に心配なのは、第二原発も含めて、スリーマイル島型の危機が依然として続き、最悪の場合は原子炉の爆発(原因は違うにしてもチェルノブイリ型)という破滅的な結末さえまだ残されている状況です。
政府(特に「保安院」)・東電の情報後出しと、NHKに出てくる東大教授や記者のノーテンキな解説などには、苛立ちます。
先ほど、3号機でも水素爆発が起きてしまいました。
画像を見るかぎり、1号機よりも激しい爆発の跡のように見えます。
原子炉格納容器に異常はないといっていますが、本当にチェルノブイリ型の爆発を回避できるのかどうか、実に不安です。
(22:38)
次々に破局迫りぬ故郷にスリーマイルかチェルノブイリの
(22:45)
Mさん、ありがとうございます。
大震災の後、6歳まで暮らした生まれ故郷が、いまやスリーマイルかチェルノブイリのような破局に至りかねない、日々危機的な状況になっています。
なんとかこれが破局に至らぬことを、薄氷を踏むような気持ちで願いながら暮らしています。
菅も枝野(菅よりはまだましでしたが)もさることながら、「保安院」と称する官僚機構の連中と、東電の記者会見に出てくる幹部社員連中の、およそ危機感の欠けた情報の掌握・分析・伝達能力の無能振りにはホトホト呆れ、こんな連中がこれまで日本の原発行政と運営をやっていたのかと、改めて怒りと恐怖を覚えました。
今は、現場の人々の決死の作業の成功をひたすら祈るしかありません。
最後になりましたが、青森からの無事ご帰還、安心しました。