長内那由多のMovie Note

映画や海外ドラマのレビューを中心としたブログ

『RRR』

2023-01-05 | 映画レビュー(あ)

 日本では根強いファンがいる事から定期的に話題作が生まれてきたインド映画。中でも本国で歴代興行収入記録を塗り替えた『バーフバリ』シリーズはカルト的人気を博したが、S・S・ラージャマウリが監督する新作『RRR』はいよいよアメリカにも旋風をもたらしている様子だ。年末から相次いで発表される全米各地の批評家賞で作曲賞や外国語映画賞のみならず、並み居るハリウッド映画群を抑えて監督賞や作品賞にまで名を連ねている。肝心のアカデミー国際長編映画賞ではインド代表に選出されていない事から対象外ではあるものの、北米ではNetflixでの配信も手伝ってこれまでのインド映画にはない爆発的評価を獲得しているのだ。

 めったにインド映画を見ない筆者も圧倒されっぱなしだった。過剰なまでに激しいアクションシークエンスに、驚異的な群衆演出、もちろんインド映画のトレードマークであるダンスミュージカルもあればラブストーリーも盛り込まれ、タランティーノ映画のような歴史改変が行われる本作には国民映画としての異常なまでの熱気がある。観客を一向に飽きさせることなく3時間を一気に駆け抜ける破竹の剛腕演出が近年、超長尺化が顕著なハリウッドにおいて衝撃をもって迎えられていることは想像に難くなく、主人公2人の人物紹介に費やされる前半1時間においてはほとんどセリフらしいセリフすらない。映画ならではの動的ダイナミズムは幼少期にインド神話を元にしたコミックを読んで育ったという、ラージャマウリ監督の出自も影響しているのだろう(MCUは三顧の礼でアベンジャーズ最新作を撮ってもらうべきでは)。

 イギリス統治下のインドで独立運動に身を捧げた実在の英雄コムラム・ビームとアッルーリ・シータラーマ・ラージュを描いているが、ビームは1900年代、ラージュは1800年代を生きた人物であり、2人が熱い友情を築く本作は歴史改変ファンタジーである。密林の奥深くで平穏に暮らしていたビームと、革命の志を胸に秘めて英国に仕えるラージュのブロマンスは映画が2時間を迎える頃に悲劇的な決裂を迎える。共に祖国を愛しながら戦い方を異にする2人に託されているのは圧政によって分断され、時に同じ国民同士で対立したインドの負の歴史だろう。それは奇しくも分断、内戦への危惧がそこかしこに伺い知れた2022年のアメリカ映画、TVシリーズとも呼応し、アメリカ賞レース席巻は然るべき必然だったのだ。

 …などと思いを巡らしてみたものの、観客を満足感タップリで家に帰すためなら余韻すら必要としないインド映画の恒例、エンドクレジットミュージカルの楽しさに正気は吹き飛んだ。考えるな、感じろ。『RRR』はあらゆるジャンルが存在し、あらゆる事が起こるインド映画の真髄とも言うべき大スペクタクルだ。ハリウッド映画の勢いが翳る今、ついにボリウッドが世界を制するかも知れない。ハリウッドよ、刮目せよ!


『RRR』22・印
監督 S・S・ラージャマウリ
出演 N・T・ラーマ・ラオ・ジュニア、アジャイ・デーヴガン、アーリヤー・バット

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