ディズニー買収後のスター・ウォーズシリーズは、粗製乱造により多くの若手監督のキャリアを空費した。今や唯一、成功した実写映画と見なされている『ローグ・ワン』でさえ、代打トニー・ギルロイ監督によって公開1年前に全体の約40パーセントが再撮影され、我々の知る形となっている。後にギルロイによって傑作『キャシアン・アンドー』が生まれことも含め、ギャレス・エドワーズ監督の功績は軽視されがちだ。「報じられている内容は事実と異なる」と発言する彼は、最後まで共に現場で指揮を執り続けていたという。しかし、大手スタジオのブロックバスターを仕上げられなかったという業界内評価は、エドワーズに映画作家として幾つもの難題を突きつけたことは想像に難くない。
そんな『ローグ・ワン』から7年を経たエドワーズの新作『ザ・クリエイター』は、ハリウッドが忘れたセンス・オブ・ワンダーを甦らせた傑作だ。遠い未来、AIが人類に反旗を翻し…というプロットや、スター・ウォーズを思わせるドロイドのデザインはまず脇に置いて、目の前で繰り広げられる映像を(できる限り大きい)スクリーンで体験してほしい。『ブレードランナー』よろしくな漢字看板のメトロポリスはそこそこに、映し出されるのは東南アジアの田園風景にSFを融合した新たなアジアンフューチャーだ。ここではAIが独自に発展、文化を形成し、彼らは神を信じ、宗教を形成している。人類を人類たらしめた進化が神の知覚であることは近年『ウエストワールド』でも描かれてきたが、エドワーズがAIに見出しているのはロボットではなく“他者”という我々の鏡像だ。偉大なSF映画の先駆者たちと同様、『ザ・クリエイター』もまた先見と今日性を持ち、2020年代に入ってなお戦争が繰り返され、そこにアメリカの姿が介在する現実を私たちに突きつける。AIたちの集落をアメリカ軍の巨大な戦車が蹂躙する光景に、心傷まずにいられるだろうか。
驚くべきことにエドワーズは本作を8000万ドルというローバジェットで撮り上げている。全世界でロケハンを敢行、70年代の日本製レンズで現場にある“有り物”を映し、後にILMが加工する手法を採用して近年のCG過多な製作手法から脱却。グレイグ・フレイザー、そして新鋭オーレン・ソファによるザラついた撮影が近年のジャンル映画にはないルックを本作にもたらした。『テネット』に続き、またしても独創的なSF映画に主演したジョン・デヴィッド・ワシントンは、父とは異なる頼もしいジャンル形成だ。筆者は2007年のアルフォンソ・キュアロン監督作『トゥモロー・ワールド』を彷彿とした。私たちの生活と地続きの未来。混迷とした現実を映す切実なプロット(だが本作のエドワーズにはなんとユーモアがある)。そして2作の重要な共通項はこの星に生きる全ての“Children of Men”に映画が宛てられていることだ。『トゥモロー・ワールド』では元ヒッピーの老人(先頃、引退を表明したマイケル・ケインが演じる)が言う。“Shanti Shanti Santi”=世に平和あれ。『ザ・クリエイター』のラストシーンに、僕は再びそう祈らずにはいられなかったのである。
『ザ・クリエイター/創造者』23・米
監督 ギャレス・エドワーズ
出演 ジョン・デヴィッド・ワシントン、ジェンマ・チャン、渡辺謙、マデリン・ユナ・ヴォイルズ、アリソン・ジャネイ
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