壁際椿事の「あるくみるきく」

東京都内在住の50代男性。宜しくお願いします。

『職人ことばの「技と粋」』、その2

2010年05月17日 | 読書
『職人ことばの「技と粋」』(小関智弘著)の続き。

【捨絞り、捨穴】
ほんらいのその金型は、フィルムのような薄い板から部品を切り抜くだけの、抜型でいいのですが、植松さんは「抜き絞り型」という複合能力のある金型をつくりました。
(中略)
植松さんはフィルムのような板から携帯電話の部品を抜くと同時に、スクラップになる残りの材料の部分に細長い絞り加工をしてしまう金型を工夫したのです。すると、部品を抜き取られてヘナヘナになってしまうスクラップが、しっかりしたものになり、スピードを上げて巻き取っても、からまったり途切れたりしません。
(中略)
捨ててしまうスクラップに絞りを入れて強度を増す、という発想がこの成功秘訣でした。出来上がった部品を見ただけでは、それをつくるためにこんな工夫があるということは誰にもわかりません。
(中略)
余談ですが、(植松さんに難度の高い金属加工を依頼した)大手メーカーは、植松さんの金型づくりの技と知恵を評価して、専属の技術コンサルタントになるよう勧めたそうです。植松さんは高齢なうえ、心臓バイパス手術をしたり、ガンで片足を切断したりで既に二通の障害者手帳を持ちながら働いていました。そういう体を案じての、ありがたい提案だったのですが、それを辞退しました。
「あんたも職人ならわかるだろう。現場を離れて、机に座っていたっていいアイデアは浮かばないよ。あの捨て絞りだって、ヤスリのケツを押しながら考えていて、ひょっこり生まれたんだ。職人の知恵って、そんあもんだろう」

まさに発想はコロンブスの卵。そして、発想は現場でしか生まれない、一生現場に生きる、と有り難い申し出を断る潔さ。なかなかできることではありません。

【根まわし】
ビジネス用語として知られていますが、もともとは造園師、植木職人の言葉で、広辞苑にも載っているそうです。以下、本書から孫引き。

「大木を移植する1~2年前に、その周囲を掘って、側根の大きなものと主根とを残し、その他の根を切り、髭根を発生させ、移植を容易にすること。果樹の結実を良好にするためにも行う」

このほか、ピンときた言葉をいくつか。
二度学ぶ、空打ち、行儀、渡り職人、下手の長糸・上手の小糸、かぐや姫の難題、後工程はお客様、捨挽、刃先を殺す、植うる剣(「荒城の月」の2番の歌詞)、クセを生かす、段取り八分……。

巻末に引用文献がたくさん載っており、こちらも読みたくなりました。

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