壁際椿事の「あるくみるきく」

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『思い邪なし』を読んでいる

2010年11月05日 | 読書(文芸、フィクションほか)
『思い邪なし』(水木楊著、講談社)を読んでいます。池田勇人首相の経済ブレーンとして、所得倍増計画を推し進めたエコノミスト、下村治の評伝です。

日本史や政経の教科書でしか名前を知らない人が、続々と出てきます。複雑な人間関係を把握するのがツラかったですが、そのうち物語に引き込まれていきました。経済政策の積極派と慎重派の対立という、人間ドラマを描いているからでしょう。

「大蔵省同期は、マフィアと同程度に結束が固い」、「(安保反対闘争で勢いづく野党に対し、月給二倍論〈後の所得倍増計画〉をぶつけるのは)気負ってバットを振り回してくる打者にフォークボールを投げて空振りさせるようなものだ」など、独特のたとえが面白い。水木氏は日経新聞の記者(同書執筆時は主幹)。それだけに表現が巧みで、読ませます。

時代背景もあるでしょうが、エコノミストが己の命と引き換えにするくらいの情熱を込め、自説を戦わせる様子が伝わってきます。経済史の勉強というより、人間ドラマとして○(マル)です。いよいよ評伝は佳境。後半も面白そうです。