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上海事変13

2009-02-21 13:44:17 | コードギアス
上海事変13

星刻が残月に連れて行かれてから1日後の洛陽である。洪古准将率いる軍団が凱旋した。

「中央軍所属准将洪古が、報告に参っております。」
取次ぎの宦官が特有のかん高い声で伝える。
《星刻は確かに大宦官たちを処分したが、すべての宦官を処分したわけではない。そんな事をしたら、たちどころに政治が滞り中華連邦が崩壊してしまう》
「洪が、」(洪なら、何があったのか全部知っているはず)
彼は星刻と一緒に上海戦に行ったのだから。


事情がわかるはずという香凜の期待はあっさりはずれた。洪古は星刻と共に進軍したが途中で渓谷の橋が落ちていた。重要な街道の橋が落ちたまま、しかも中央政府に報告さえされていないのは、中華の政治的弱体化や、経済的混乱を示すものだった。
ガンルゥは空を飛べない。しかし、上海の暴動はすぐに取り押さえねば全土に飛び火しかねない。やむを得ず星刻ひとりが神虎で飛んだ。黒の騎士団に応援を頼めないかとの洪古の言葉に星刻は首を振る。今回のことは純粋に中華のお家の事情だ。「うかつに借りをつくるのは得策ではない」
もちろん洪古も単にそのまま帰るような無能な男ではない。上海と呼応するならここが一番先に動くだろう自治都市を山賊退治の名目で締め上げた。このおかげで上海は孤立し、ただ、1戦のみで鎮圧できた。

洪古は形式的な報告を終え、いったん洛陽市内の館に戻った。すると珍しい事に南部の高級保養地でのんびりしているはずの父が館に帰っていた。父は帰ってきたばかりの息子に軍装を解く暇も与えず奥の部屋に引っ張り込んだ。人払いをし、回りを警戒し、ようやく父は話した。「星刻が軍法予備会議にかけられ抹殺されかけている」
軍法予備会議とは本来なら軍法会議の前の証拠探しのための委員会にすぎない。しかし、政治腐敗のなか、それは公認されたリンチになっていた。どんな軍人も一度これにかけられれば将来は無い。それどころか生命すら事故を装って奪われかねない。下級役人の息子に過ぎなかった星刻には政治的な後見がいない。(高亥が生きていた間は実質的に後見であった)
そのために陰謀への対処が遅れた。不幸中の幸い、予備会議が公式に召集される前に洪古の父の所に密告があった。




天子は高級官僚たちからの報告を玉座で聞いていた。人形のようにただうなずくだけ。香凜は左側に立ち幼い主君を見守っている。
(まるで、あの日以前に戻ってしまわれたように・・・いいえ、あのころよりずっと悪い。)
天子の表情からは感情が抜け落ちていた。純白の髪とあいまって彼女はますますアンティークドールめいて見える。

香凜は政務の合間に「少し、外の風にあたられませんか」と天子を誘ってみた。
「いや、いやよ。お外は嫌い。怖い。ぜったいいや。」
いままで一滴も落ちなかった涙が堰を切ったように流れ落ちる。
「お外はいや、もう行かない。いやいや。」
泣き始めると止まらなかった。桃華園から、いや政略結婚の1件からずっとがまんしてきたものが、限度を超した。
(本当ならもっと早く、誰かが安心して泣かせてあげるべきだったのに。誰かが、それは星刻さま以外いなかったはずなのに。)
星刻様、あなたはひどい方です。こんなにかわいい人をひとりで泣かせるなんて。
私なら、絶対にこの方を一人にはしない。お約束します。だから、裏切らせてください。あなたの副官であった私を。