病院で書き落としたメモ
医療宮は常に28度以上に保たれている。室外と室内の温度差が30度もあるせいで、窓ガラスは露で覆われてスクリーンのようだ。
昨夜また発熱がぶり返したせいか、星刻はぐっすり眠っている。いつもなら天子が顔を出すときは多少の無理をしてでも起き上がっているのに。
はじめて見る。星刻の寝顔。額に薄くある縦皺。天子は以前香凜に聞いたことを思い出す。
『星刻様は政治向きの書類を見ているときだけ額に皺が寄るのですよ』
自分は見たことが無い。そんな星刻を見たくて執務中の彼を何度も訪ねた。でもいつも会えるのは優しく微笑んでいる彼ばかり。
『天子様の足音はどんな遠くからでも分かります』
そう言って抱き上げてくれる彼にまた自分は甘える。今にして思えばあのころすでに彼の身体はかなりつらかったはずだ。
星刻は目を覚まさない。
ドアを叩く音がする。もう報告を聞く時間が迫っている。
「シンクウ。今は私が、私はあなたを」
朝日がスクリーンのように窓を輝かせる。
小さな指先が窓ガラスに何かを書いていく。
星刻が目を開けたとき天子の足音が遠ざかっていった。星刻は日の光に誘われるように窓を見た。
wo ai ni
「好き」
小さな三文字を星刻が見るまで後1秒。
星刻はいつまでも愛情を忠誠に自動変換していそうです。日本の女帝やブリタニアの女帝がいくら応援してやっても天子様の恋はなかなか実りそうにありません。
ならば告白するなら天子様から。
それもかわいらしい方法で。