氷樹8
すでに棺の上の錬成陣は完成形に近い。
生体系の陣とエネルギー系の陣の複雑な複合体。
発動すれば、おそらく一瞬で解凍し再生する。
うまくいけばである。
ラッセルの死因は内臓系の異常だったのだろう。それを修正する錬成も含まれている。
もしうまくいけば、同様の異常を生まれ持ってきた全ての患者に大きな希望を与えるだろう。
しかし、不可能だ。とエドは感じた。
生体系、エネルギー系、どちらかの陣だけでも完全に発動させるのは銀時計クラスの術師がかなりのリスクを覚悟せねばならない。
「やめろ」
この錬成を完全発動することは誰にもできない。まして赤い石すらない。
「なぜだ、なぜ俺をここに入れた」
何とかして止めようとエドはフレッチャーに話しかける。気を逸らして殴ってでもここから出さなければ。もう『弟』を不幸にはしない。
「兄さんはずっとエドワードさんに会いたがっていました。だから、目を覚ましたら一番に会わせてあげたいんです」
エドに答える間だけフレッチャーの手は止まった。しかし、殴れるような隙がない。
「ラッセルは最後までエドワード・エルリックに会いたがった。たぶん、フレッチャーの将来を託したかったのだろう」
「ラッセルは後数日しか持たないと言われていた。もし、フレッチャーが連れ出したことで死が早まったとしてもあいつは弟を恨まないだろう」
2通目の報告書には参考人の意見が添えられていた。ゼノタイム市民のベルシオである。ナッシュ・トリンガムの友人でトリンガム兄弟の保護者でもあった。マスタングは『ラッセルの死を確認していない』点にこだわった。意識すらあいまいになった兄を弟は連れ出し、そのまま消息を絶った。以後は銀時計を手にするまで記録はない。
「兄さんは僕を守って幸せでいるようにしてくれた。でも、僕は兄さんに喜んで欲しかった。僕を笑わせる前に、兄さんに笑って欲しかった。兄さんはエドワードさんに一番会いたがっていた。目を覚ましてあなたを見たら絶対に喜んでくれます。僕が兄さんを幸せにできる。だから、少しでいいからじゃましちゃいやですよ」
にこっと笑ってフレッチャーは何かを言った。
冷たく冷え切ったエドワードの手首に何か熱いものが這った。
「すでに滅んだ系統の錬金術です。言葉をキーワードにして自動発動する。軍でも使えますよ」
エドワードの両手は氷の壁に拘束された。
「大丈夫ですよ。すぐ終わります。そこにいてください。そこが一番安全ですから」
蒼い錬成光が倉庫全体に広がった。
外から見ればきれいだろうな、とエドは埒もないことを思った。もう止められない。弟がモッテイカレルノヲ俺は見ているしかできない。
棺が揺れたのをエドは見た。それが何故なのかは確認できなかった。
蒼い光が紫色に変わった。
拘束されていた両手が自由になった。
「鋼の!」
聞き慣れた怒鳴り声が聞こえた。
すでに棺の上の錬成陣は完成形に近い。
生体系の陣とエネルギー系の陣の複雑な複合体。
発動すれば、おそらく一瞬で解凍し再生する。
うまくいけばである。
ラッセルの死因は内臓系の異常だったのだろう。それを修正する錬成も含まれている。
もしうまくいけば、同様の異常を生まれ持ってきた全ての患者に大きな希望を与えるだろう。
しかし、不可能だ。とエドは感じた。
生体系、エネルギー系、どちらかの陣だけでも完全に発動させるのは銀時計クラスの術師がかなりのリスクを覚悟せねばならない。
「やめろ」
この錬成を完全発動することは誰にもできない。まして赤い石すらない。
「なぜだ、なぜ俺をここに入れた」
何とかして止めようとエドはフレッチャーに話しかける。気を逸らして殴ってでもここから出さなければ。もう『弟』を不幸にはしない。
「兄さんはずっとエドワードさんに会いたがっていました。だから、目を覚ましたら一番に会わせてあげたいんです」
エドに答える間だけフレッチャーの手は止まった。しかし、殴れるような隙がない。
「ラッセルは最後までエドワード・エルリックに会いたがった。たぶん、フレッチャーの将来を託したかったのだろう」
「ラッセルは後数日しか持たないと言われていた。もし、フレッチャーが連れ出したことで死が早まったとしてもあいつは弟を恨まないだろう」
2通目の報告書には参考人の意見が添えられていた。ゼノタイム市民のベルシオである。ナッシュ・トリンガムの友人でトリンガム兄弟の保護者でもあった。マスタングは『ラッセルの死を確認していない』点にこだわった。意識すらあいまいになった兄を弟は連れ出し、そのまま消息を絶った。以後は銀時計を手にするまで記録はない。
「兄さんは僕を守って幸せでいるようにしてくれた。でも、僕は兄さんに喜んで欲しかった。僕を笑わせる前に、兄さんに笑って欲しかった。兄さんはエドワードさんに一番会いたがっていた。目を覚ましてあなたを見たら絶対に喜んでくれます。僕が兄さんを幸せにできる。だから、少しでいいからじゃましちゃいやですよ」
にこっと笑ってフレッチャーは何かを言った。
冷たく冷え切ったエドワードの手首に何か熱いものが這った。
「すでに滅んだ系統の錬金術です。言葉をキーワードにして自動発動する。軍でも使えますよ」
エドワードの両手は氷の壁に拘束された。
「大丈夫ですよ。すぐ終わります。そこにいてください。そこが一番安全ですから」
蒼い錬成光が倉庫全体に広がった。
外から見ればきれいだろうな、とエドは埒もないことを思った。もう止められない。弟がモッテイカレルノヲ俺は見ているしかできない。
棺が揺れたのをエドは見た。それが何故なのかは確認できなかった。
蒼い光が紫色に変わった。
拘束されていた両手が自由になった。
「鋼の!」
聞き慣れた怒鳴り声が聞こえた。