【ただいま読書中】

おかだ 外郎という乱読家です。mixiに書いている読書日記を、こちらにも出しています。

スイーツ/『砂糖のイスラーム生活史』

2009-04-03 17:54:53 | Weblog
 漫画『美味しんぼ』では「日本のお菓子の甘みの基準は、干し柿」とあったのを私は覚えています。たしかに手軽に入手可能な「甘みの結晶」は干し柿だよな、と感じましたっけ。だから和三盆もそれほどくどくない甘みなのでしょう。
 それに対して『千夜一夜物語』では、果物もですが、砂糖菓子がふんだんに登場します。またその描写が本当に美味しそうなので、読んでいてよだれが出そうでした(実際に出ていたかもしれません)。今日読書日記を書いた本では、西洋の甘みの基準は、蜂蜜や果物の濃縮ジュース(ディブス)、とありました。これは強烈に甘そうです。だからこそそれに対抗できる甘みを持っている砂糖菓子が大活躍できたのでしょう。
 今の日本では、古今東西、広く甘みを味わうことができるので、なんて幸せな国に生きているんだろう、と甘党の私は喜びながら生きています。“敵”はメタボですが。

【ただいま読書中】
砂糖のイスラーム生活史』佐藤次高 著、 岩波書店、2008年、3200円(税別)

 サトウキビの野生種は、インドまたはニューギニア原産と言われていますが、それを栽培しての砂糖生産は紀元後まもなくインドのベンガル地方で開始され、東西に広がりました。東方の中国では唐代に始まり、17世紀には沖縄で。西方では、7世紀ササン趙ペルシア・9世紀エジプト・12世紀イベリア半島と広がり、16世紀にはカリブ海やブラジルで行われるようになります。ちなみに「佳境に入る」とは「サトウキビの甘みの少ないしっぽから食べ始めて、だんだん中心の美味しいところに至ること」だそうです。
 砂糖は、サンスクリット語でサルカラー(Sarkara)(最後のaの上に―)、ペルシア語でシャカル(Shakar)、それがアラビア語でスッカル(Sukkar)となりました。
 収穫されたサトウキビは短く裁断され石臼で潰されて、採取された液汁は濾過・煮沸が繰り返されます。それで粗糖と糖蜜が得られ、イスラーム世界では粗糖に水と牛乳を加えて煮沸することで(タンパク質が雑物を取り除いて凝固し)白砂糖が得られます(琉球ではタンパク源として鶏卵が用いられました)。水で溶かした砂糖にナツメヤシの枝を入れてそこに結晶化させることで氷砂糖も作られています。『東方見聞録』には、中国とイスラーム世界との間で精糖技術の交流が行われていたことが述べられているそうです。
 11~12世紀、カーリミーと呼ばれる商人グループが紅海からナイル流域にかけて広く交易活動を行いました。扱ったのは、胡椒・香料・砂糖・金属製品・木材・馬・奴隷……その利益を狙って12世紀に十字軍艦隊が紅海に進出しますが、メッカ・メディナの聖都を脅かされるとイスラム艦隊が撃退しています。しかし15世紀にはスルタンが胡椒と砂糖を専売制とし、カーリミーに大打撃を与えました。
 砂糖菓子はイスラム世界で独特の地位を占めています。たとえば、断食で有名なラマダーン月には各地方で独特の「ラマダーン月の甘菓子(ハルワヤート)」が作られます。11世紀頃から、ラマダーン月にスルタンが臣下に砂糖を下賜する習慣が生まれました。また、機会を捉えては、修行者など宗教関係者に慈善の贈り物として砂糖や甘菓子が与えられました。
 宮廷料理のレシピが様々紹介され(さすがに贅沢なものが多いです)、『千夜一夜物語』も登場します。やはりこれは見逃せませんよね。さらに、アラブ薬膳書も紹介されています。アラブでは砂糖は「薬物」でもあり、東洋の薬膳と同じ発想で健康を維持するための食事が研究されていました。たとえば本書で紹介されている『健康表』では、砂糖を含めて280の項目が検討されています。そこで砂糖(スッカル)の効能は「内臓の痛みを和らげる、特に腎臓や膀胱の痛みに効き目がある」のだそうです。ただし副作用として「のどがかわき、黄胆汁が増加する」のだそうで。真面目な顔で「甘いお薬」の効能について論じている学者たちのことを想像したら、なんだか可笑しくなってしまいました。砂糖は人を簡単に幸福にしてくれるものなんですね。




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