【ただいま読書中】

おかだ 外郎という乱読家です。mixiに書いている読書日記を、こちらにも出しています。

専門家の異見の存在意義

2021-06-08 07:24:58 | Weblog

 日本政府は「専門家の意見を聞く」とよく言います。でも、政府の意向に反することを専門家が言ったら、学術会議から外されたり怒られたりします。

【ただいま読書中】『そのとき、「お金」で歴史が動いた』ホン・チュヌク 著、 米津篤八 訳、 文響社、2021年、2350円(税別)

 スチュワート王朝は思いつきのように重税を課しさらに「債務不履行」を乱発しました。そのため国王に対する不信感は増し、ついに清教徒革命が勃発。さらには父の処刑から教訓を得ず重税を課そうとしたチャールズ2世もまた名誉革命を食らうことになりました。その後の英国政府は、税金や債券の支払いでは極めて“優等生”となり、国債の利率は急低下、安いコストで資金が調達できるようになった金融市場に資金が集まるようになり、英国は高価な戦列艦を次々建造することが可能になりました。18世紀ヨーロッパの“強国”はフランスでしたが(人口はヨーロッパで最大、GNPはイギリスの2倍以上)、“金食い虫”の海軍に関してはイギリスの方が上になっていました。
 名誉革命でオランダから招かれた新国王ウィリアム3世は、オランダの金融システムもイギリスに持ち込みました。その中には「株式市場」「国際的な信用取引」「中央銀行」も含まれていました。「東インド会社」や「宗教改革」もオランダがイギリスに先行していますが、これは別のお話になりそうです。ともかく、フランスやスペインは「経済」が弱点だったため、いくら軍隊が強くても「戦闘」には勝てるが「戦争」には負ける、を繰り返すことになりました。
 そうそう、この章での重大な教訓は「金利が高いのには理由がある(リスクがある)」です。
 日本で人気のある「三国志」以降の中国の歴史も「お金」の視点からユニークな分析が行われています。18世紀あたりまで、中国は「豊かな国」でした。しかし漢民族は敗北続きで異民族支配が長く続いていました。さらにヨーロッパにも負けてしまうのですから困ったものです。ここにも「お金」がしっかり絡んでいます。
 大恐慌、金本位制の崩壊なども、もちろん「お金」の問題ではありますが、高校の教科書では習わなかったことが次々紹介されます。
 「コロナ不況」からいかに脱するかを考えるに当たって、著者はまず「2001年」を思います。同時多発テロ後、落ち込んだアメリカ経済が回復した主な理由は「政策(金融緩和によるインフレ期待)」と「戦争」でした。これは成功体験と言えるでしょう(アメリカ経済については、です。金融緩和の長期的な副作用や戦争が世界中に与えた傷については“別勘定”となるでしょう)。次に著者が想起するのは、百年前のスペイン風邪です。コロナと同様、こちらもパンデミックでした。スペイン風邪では政策判断の遅れが多数の死者と経済への大々的な悪影響をもたらしました。では、COVID-19では? 現在各国はそれぞれ違った対策で対応しています。これのどれが有効か、で“ベストの対応策”が見つかれば良いのですが、問題は「グローバル化」でしょう。どこか弱い部分があったら、ウイルスはそこを見逃さずに増殖し変異し、そこからまた世界中に広がりますから。では世界中でロックダウンをしましょうか。でもロックダウンは深刻な経済後退をもたらします。
 さらに話をややこしくするのは、現在私たちは「情報革命」の真っ只中にいることです。著者の主張では情報革命は「低物価・低金利」をもたらします。さらにロックダウンを厳密に実行した国は経済成長率が落ち、デフレ圧力が高まります。コロナによって文化が変質し「非接触」が当たり前となると、それも経済に影響を与えます。著者は「おそらく差別や不平等が加速するだろう」と嫌な予測をします。病原体や病気に対する差別意識が人間にも拡張される、ということでしょうか。人口移動は抑制されますが、これによって国際的な格差の拡大がもたらされる可能性が高くなります。「ポストコロナで経済は劇的なV字回復をする」という予測があるし、私もおそらくそうなるだろうとうすうす感じてはいますが、それは「劇的な不平等とともに」になるのかもしれません。そういった「ポストコロナ社会」でどのように生き抜くか、今から準備を(少なくとも心の準備は)しておいた方が良さそうです。

 



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