【ただいま読書中】

おかだ 外郎という乱読家です。mixiに書いている読書日記を、こちらにも出しています。

ミクロのアトラクション

2013-07-20 22:21:34 | Weblog

 『ミクロの決死圏』では「人体内」が冒険の舞台でしたが、そのうち「観光アトラクション」として同じことを経験できるようにならないでしょうか。私の希望は、模型の中の冒険アトラクションではなくて、実際に潜航艇が縮小されて、本物の人体の中に注入されての「観光/冒険」です。スリルがあるでしょうねえ。あ、注入される側は「スリル」どころではないか。

【ただいま読書中】『血液6000キロの旅 ──ワンダーランドとしての人体』坂井建雄 著、 講談社(選書メチエ220)、2001年、1600円(税別)

 はじめは輸血用の血液の緊急輸送の話かな、と思いましたが、どうも「人体内での血液循環」の話のようです。すると「6000キロ」って、何でしょう? なかなか巧妙なタイトルです。
 血液の機能はいくつかあります。まずは物質の全身への配送。そこで重要な臓器は、(物質の出入りを行っている)肺・消化器・泌尿器です。血管の小さな傷の修復も血液が行いますし、体外から侵入した外敵と戦う機能もあります。
 標準的な人体に含まれる血液量は約5リットル。標準的な心臓が送り出す血液量は1分に5リットル。つまり1分間で血液は人体を(計算上は)一周していることになります。心臓が血液を送り出す臓器は様々ありますが、まず本書で“特別扱い”として取り上げられるのが「肺」「消化器」「腎」です。どれも臓器の大きさに比較して、アンバランスなくらい大量の血液が流れ込みます。もう一つの共通点は「表面積の広さ」。ヒトの肺胞を広げたら60平方メートルくらい、小腸は200平方メートル。
 大動脈では秒速50cmくらいだった血液は、毛細血管(赤血球一個がやっと通過できるかどうかの太さ)では秒速1ミリくらいの速度になります。毛細血管では圧力が高まるため血管外に少しずつ液がしみ出し、毛細血管の終わりの方では液が逆の動きをします。こうして物質の交換が行われます。
 肺では、酸素が血液(主にヘモグロビン)に取り込まれ二酸化炭素が放出されます。もう一つ重要な機能が発声です。これは人間にとって、とても大切な機能です。
 消化管には、普段は全血液量の25%が割り当てられます。栄養吸収のためですが、著者はもう一つ「食の喜び」を上げます。だって、呼吸でも排泄でも、そこまでの喜びは得られないのですから。「消化器系」というと「胃腸」のことを思いますが、非常に重要なのは「肝臓」です。ここは人体の物質代謝のセンターとなっています。
 泌尿器系は“日陰の存在”“縁の下の力持ち”です。人体全体の水分と塩分と老廃物の排出を管理しているのですから。そのため、腎臓の血流量は莫大なものとなっています(心拍出量の20%)。それが1000万個の糸球体で濾過されて1日あたり200リットルの「尿(のもと)」となります。次に尿細管で「必要なもの」が人体に再吸収されて、最終的な「尿」が生産されます。……そうか、「尿」というけれど、その一歩手前は「血液」だったんだ。
 「血液」を切り口に「人体というワンダーランド」の旅のガイドをしてくれる本です。「ミクロの決死圏」ほどのスリルはありませんが、なかなか楽しい本でした。

 ところで、結局「6000キロ」って、なんでしたっけ?



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