【ただいま読書中】

おかだ 外郎という乱読家です。mixiに書いている読書日記を、こちらにも出しています。

肉を切る

2021-07-18 10:43:12 | Weblog

 シェフが牛の枝肉から料理用に鮮やかに肉を切り取る包丁捌きは賞賛されますが、その枝肉を作るために牛の首や手足を鮮やかに切る刃捌きが賞賛されることはあまりありません。

【ただいま読書中】『日本外食全史』阿古真理 著、 亜紀書房、2021年、2800円(税別)

 日本に「外食」が普及したのは、江戸時代。経済都市大坂では商談のために料亭が早くから成立していました。江戸の商業は小売り中心でしたが、「天下の台所」は全国を視野におさめた問屋や仲買中心でした。ただ「なにわ料理」というジャンルは新しく、1973年の「浪速割烹」からだそうです。
 出汁にも地域差があります。京は利尻昆布とマグロ節、大阪は真昆布とカツオのアラ節。江戸は高知から輸送の時間がかかるので本枯れ節が好まれ、それに従来の薄口醤油が合わないので野田の濃口醤油が開発されたそうです。水も違います。大坂は軟水で昆布の出汁が良く出ますが、関東は硬水で昆布の味が出にくいので鰹節が活躍することになったそうです。
 昭和45年は「外食元年」とも呼ばれます。大坂万博に出店した多彩なレストランで日本人は「外食の魅力」に気づきました。私自身それまでの外食と言えば日曜日のデパートの大食堂でお子様ランチ、だけだったのが、庶民でも「レストラン」で食べることができることを万博で知りました。そしてその直後からファミレスが日本中に普及し始めます。フランス料理を中心とする「グルメブーム」は1970年代末から。80年代後半にはイタ飯。バブル破裂後にはエスニック、韓流、カフェ、フードトラック……こう並べると「ああ、懐かしい」と思えます。これは単なる流行の移りかわりではなくて、たとえば「企業で女性が一般職で採用されるようになったこと」や「格差の拡大」など「社会の変化」もその流行(の変遷)に直結してるのです。
 本書では、時空を縦横に駆け巡ります。「和食」の章では、『ミシュラン』よりずっと先に、江戸では「料理屋の番付」が売り出されていたことを知ったと思ったら、ペリーやプチャーチンは「和食」にがっかりし、北王子魯山人も登場。かつては男性のものだったのに、今では女性や酒を飲まない人間も入る不思議な空間「居酒屋」。
 肉食の歴史、「和食」の定義、洋食……分厚い本ですが、内容は見かけ以上に“分厚い”ものです。さらに参考文献がすごい。何百冊紹介されているかな、参考図書のリストを数える気にもならないくらいずらりと本が並んでいますし、それぞれがまたずいぶん“美味し”そう。本書は最初から最後まで通読しなくても“つまみ食い”でも楽しめると思います。

 



コメントを投稿