【ただいま読書中】

おかだ 外郎という乱読家です。mixiに書いている読書日記を、こちらにも出しています。

先駆者の末路

2021-07-13 10:49:13 | Weblog

 20世紀末から21世紀はじめ頃、「ネット金融」関連の記事で「スルガ銀行」の名前をよく見るようになりました。先駆者だなあ、と私は感心していました。しかし……

【ただいま読書中】『スルガ銀行かぼちゃの馬車事件 ──四四〇億円の借金帳消しを勝ち取った男たち』大下英司 著、 さくら舎、2021年、1800円(税別)

 女性専用シェアハウス「かぼちゃの馬車」は、地方に住む若い女性に都会に住む場所を提供、敷金礼金はゼロ、人材派遣会社が提携していて仕事を斡旋する、という「社会貢献」をウリにしていました。オーナーには「ローンは家賃で相殺(むしろ利益が出る)」「30年の家賃保証」「ローンは“地方銀行の雄”スルガ銀行が必ずしてくれる」という実に“美味しい話”です。その気になったオーナー志願者にスルガ銀行が示したのは「“黒字”の半分は積立預金」「(金利7.5%の)フリースタイルローン1000万円を借りること」。
 あのう、これは「抱き合わせ融資」では? つまり、違法行為。
 不動産販売会社、建築会社、スルガ銀行ががっちり組んで素人を騙そうと全力を尽くすのですから、これは騙されない方が難しい。こういった詐欺事件の時「騙される方が悪い」とか「自己責任」と主張する人がいますが、そういった人は「世界のすべてを知っている」という自信があるか、よほど「世界はすべて敵だ」と思っているのどちらかなのかな?
 一人ではこういった悪徳組織にはかないません。これまでだったら、「被害者の会」というのをなんとか立ち上げ、それがニュースで取り上げられたら参加者が増えて裁判へ、という流れで、そうでなかったら個人の被害者は各個撃破の泣き寝入りになるだけでした。ところがいまはSNSの時代。被害者はLINEでつながります。そしてそこに変わり者の弁護士が登場します(逆に言えば、こういった悪徳業者を放置するのが現在の日本司法の“スタンダード”です)。
 不謹慎な言い方ですが、実話がそのままドラマ仕立てになっています。
 加害者からの容赦ない攻撃、世論の被害者への容赦ないバッシング、多くの被害者は自己破産や自殺を考え実際に自殺者も……思わず詳しく書きたいけれど、知りたい人は本書をどうぞ。一読の価値があります。私だっていつ詐欺の被害者になるかもしれません。特に心に不安がある人はつけ込まれやすい。たとえば「年金が足りるだろうか」「健康はずっと大丈夫だろうか」「子供の将来は大丈夫だろうか」などの誰でも持ちそうな不安が、詐欺師にとってはつけこむべき弱点にしか見えないのです。そういった詐欺師って、「自分が逮捕されて有罪になるかもしれない」という不安しか、ないのかな? そんな人生って、生きる意味がどのくらいあるのかな?
 本書に理不尽なことはたくさんありますが、最後に裁判の結果が出たときにもコロナ禍のニュースでその報道がほとんどされなかったことも理不尽に思えます。「被害者が悪い」なんて言っていたマスコミ人は、裁判の結果を報道することで自省なんかせずにコロナ禍で「××が悪い」と言い続けることができてしまったのですから。

 



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