【ただいま読書中】

おかだ 外郎という乱読家です。mixiに書いている読書日記を、こちらにも出しています。

雪道の運転

2014-02-09 08:09:16 | Weblog

 昨日は温暖な地でもしっかり雪が降りました。私は冬はずっとスタッドレスタイヤに交換しておく習慣ですから別にそれほど困りませんから、出勤時刻をいつもより10分くらい早く出るだけの対応としました。坂道を降りながらがつんとブレーキテストをすると、積雪にタイヤを取られてしっかり尻振りをします。久しぶりの感触で楽しくなります。
 ところでそんな路面状況なのに、自転車やバイクが。明らかにノーマルタイヤの自動車も。度胸だめしか自殺志願か知りませんが、頼むから「安全第一」でお願いします。自分の安全だけではなくて、他人の安全のためにも。

【ただいま読書中】『ガソリン生活』伊坂幸太郎 著、 朝日新聞出版、2013年、1600円(税別)

 一風変わった小説です。何しろ主人公が緑色のデミオなんですから。そう、マツダの自動車です。
 この世界では、自動車は知性を持ち、自動車同士でなら話すことができます。人間とは話せませんが、人間の言葉は理解できます。とまあ、ここまでがお話の大前提。というか(私たちが生きている)現実世界でも「自動車が知性を持っているが、人間はそれに気づいていないだけ」とすれば、『ガソリン生活』の世界はそのまま成立してしまいます。
 超初心者のドライバー良夫とその弟の亨が車の中で会話をしているところからお話が始まります、というか、「語り手の視点」は「デミオに固定」ですから車の中(およびその周囲)以外の“舞台”は本書には登場しません。亨は小学生ですが、明らかに精神年齢は(兄弟の父母を含めて)一家の中での“最長老”です。だから学校ではいじめられているのだそうです。さて、そのような日常に突然“異物”というか“異人”が闖入してきます。そして、かつての「パパラッチに追跡されて亡くなったダイアナ妃」の交通事故をそっくり引き写したかのようなトンネル事故が。
 兄弟(とデミオ)は、パパラッチ役のジャーナリストを追跡します。と書くとまるでミステリーか活劇のようですが、実際には情報の方がのほほーんと兄弟のところにやってくるのです。基本テイストはまるっきりファミリー映画。
 しかしそこの「恐怖」が忍び寄ってきます。ヒトにとっての恐怖と、自動車にとっての恐怖とが。どうも、兄弟に挟まれた長女(高校生)が付き合っている男が、「死体」を押しつけられそうになっているのです。それを自分の車で運搬しろ、と。
 トンネル事故と死体運搬と、二つの事件が交錯しつつ、話は回り中に伏線を振りまきながらゆっくりと進行していきます。もともと新聞の連載小説ですから、進行がゆっくりなのは、道が渋滞するのと同様しかたありませんし、伏線を少し過剰なくらい振りまかなければならないのもガソリン自動車が走ったら排気ガスやノイズが出るのと同じでしかたないことなのです。はらはらどきどきとほのぼのが信号のない十字路で交差する自動車のように入り交じります。
 そして、やはり最初から伏線があった「子供のいじめ」。これについてもちゃんと忘れずに伏線回収が行われます。それも、いじめられている子供が「自分で自分のアクセルを踏んで、人生にライトを点ける」と決心する方向で。私も後押しをしたくなります。行っけ~、と。

 しかし、ここまで無力な主人公というのも珍しいですね。能動的にできることは「(排気ガスが届く範囲内の)他の自動車とのおしゃべり」だけ。移動はすべて人間任せ。見聞できるのは自分の知覚範囲内のことだけ。目の前の小石一個動かすこともできません。だからこそ、彼らが観察する「人間の生態」は私たちにとっておなじみであると同時に新鮮なのですが。
 もしかしたらこの「主人公」は、「作者の書く文章に対して、読む以外のことは何も能動的にできない読者」の分身、ということなのかもしれません。
 新鮮な視点とちらちら登場する鋭い人間洞察を楽しみつつ、気楽に読み通すことができる娯楽小説です。ところで、日本のナンバープレートに「し」はありましたっけ? たしか「死」と「屁」は“欠番”だったのではないか、と思うのですが。



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