【ただいま読書中】

おかだ 外郎という乱読家です。mixiに書いている読書日記を、こちらにも出しています。

キューバ

2012-03-11 17:48:26 | Weblog

 私はキューバと言ったら「ゲバラ」「カストロ」「砂糖」「難民」「音楽」「米西戦争」くらいしか思いつきません。
 ところで映画の「シッコ」では、「アメリカでは受けられない治療」がキューバでは受けられる、とアメリカ医療に対する批判的な主張がされていました。そういえば007の「ダイ・アナザー・デイ」では、DNA変換といった超先進(SF)的な“治療”がキューバで行なわれていましたっけ。日本と欧米では「キューバ」に対するイメージが相当違うのかもしれません。

【ただいま読書中】『「防災大国」キューバに世界が注目するわけ』中村八郎・吉田太郎 著、 築地書館、2011年、2400円(税別)

 カリブ海はハリケーンの“名所”です。キューバはその通り道に位置していて、かつては、強風と豪雨と高潮によって、定期的に大きな被害を出していました。今でも大きなハリケーンが上陸するたびに家屋や農作物に甚大な被害が生じていますが、特筆すべきは、人的被害ががくんと減っていることです。そのことについては、キューバを敵視しているはずの合衆国でも学ぼうとしています。
 本書に紹介された数字を見るとたしかに周辺諸国との差は歴然としています。これは……
1)数字を誤魔化している
 1-1)数字がわからないので適当にでっち上げた。
 1-2)実際の数字より少ない数字に操作した。
2)本当に人的被害が減っている
 の可能性が考えられますが、本書を読む限りどうやら2)が本当のことのようです。印象的なのは「我々にとって勝利とは、人命の損失が最小であることを意味する」という、2001年ハリケーン「ミチェル」襲来時のフィデル・カストロのことばです。具体的に行なわれる行動は、早期警戒(情報周知)と早期避難。
 キューバは貧しい発展途上国で、さらに経済封鎖を受けていますから、避難用の車両は十分ではありません。だから使える車両はすべて動員して避難に使います。バスやトラック、さらには戦車まで。家畜も連れて行きます。あ、もちろんペットも。低層階から高層階への避難の場合は家財道具も移動。「ミチェル」のときには、75万人が避難したそうです(避難所は政府が用意しますが、親戚とかボランティアでの受け入れも多いそうです)。
 キューバならではの“特殊事情”はもちろんあります。アメリカからの軍事侵攻を想定しているから、災害対策は“市民防衛”の一環です。経済封鎖が厳しいので、物資を無駄にできません。社会主義で中央集権だから上からの命令が下まで浸透しやすくなっています。それでも、巨大ハリケーンが直撃してもさっと逃げてさっと戻る、という行動を市民が取るのには、教育と自主性の両立が必要でしょう。オックスファム・アメリカ(民間の支援団体)は「キューバ・モデル」を分析して「参加型の民主的な中央集権型モデル、すなわち、強力な国家と同時に分散化されたリスクガバナンスを担えるシステムは、他の国でも応用可能」としています。キューバとは違う日本、ハリケーンと同じ台風やハリケーンとは違う地震に対する防災(減災)にも、キューバは参考になるはずです。ただ、キューバでは「個人/コミュニティ/行政」が連携して動いていますが、日本ではそれぞれの独立と連携を確保することが難しそうですね。
 私が感心するのは、避難所での医療だけではなくて、教育や娯楽も考えられていることです。避難所に一人はコックがいる、という証言もあるのですが、本当? 「避難」が「日常生活」に組み込まれているという印象です。
 もう一つ印象的だったのは、本書にも「レジリエンス」が何回も登場することです。ここでは「防災力、復元力」の意味で使われていますが、最近の流行語ですか? そして、防災でのレジリエンスで重要なのは「対応の多様性」です。一面的・硬直化した対応ではなくて、複雑で柔軟な態度。
 もしかしたら数年以内に「レジリエンス」は“日本語”になっているかもしれません。ちょっとややこしい概念だし日本人好みの簡潔性を持っていないから、無理かな?




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