【ただいま読書中】

おかだ 外郎という乱読家です。mixiに書いている読書日記を、こちらにも出しています。

英霊の望み

2013-06-14 06:47:50 | Weblog

 「英霊」についてやたらと言及する政治家がよくいます。まるで自分だけが英霊の理解者であるかのように。
 ところで、死んだ兵士たちは、戦場で生き残った戦友たちに対して「お前たちも早く死んでこっちに来い」と思っていたのでしょうか、それとも「お前たちは死なないでくれ」と思っていたのでしょうか。死んだ兵士たちは自分たちの家族に、「お前たちも戦争でひどい目に遭え」と思っているのでしょうか、それとも「平和に暮らして欲しい」と思っているのでしょうか。

【ただいま読書中】『写真の裏の真実 ──硫黄島の暗号兵サカイタイゾーの選択』岸本達也 著、 幻戯書房、2011年、2500円(税別)

 2006年10月15日、静岡新聞に「硫黄島で捕虜になった日本兵サカイタイゾーの写真を、本人(か遺族)に返したいという米兵の遺族がいる」という記事が掲載されました。戦場での出会いと別れ、残された写真、それを故国へという願い……とても“美しい物語”です。しかし……
 著者(静岡放送のディレクター)はサカイタイゾーを求めて奔走します。しかし、彼が実在の兵士であるかどうかの確証はなく、さらに、写真入手にまつわる物語(無傷で投降し、フランス語で会話ができる“親しくなった”米兵に自分の家族写真を託する、という“ストーリー”)に不自然なものが感じられるようになります。
 この奔走の過程で、著者は「先の戦争」がまだ日本で“生きている”ことを感じます。軍人の遺族や硫黄島からの生還者がまだ生き残っているのですから。しかし彼らは基本的に沈黙を守っています。「戦争を知らない平和な社会」は、彼ら(や死者)の悲惨な体験と沈黙の上に成立しているようです。
 これがフィクションだったら、重要な機密を漏らしてしまったことを秘匿するために、米軍の尋問調書では偽名を用いた、と私は設定したくなります。それでも、「無傷で投降」「家族写真」の謎は解けません。
 意外なところから「サカイタイゾー」が見つかりました。硫黄島から生還し、すでに死去していましたが、子や孫は健在でした。その遺族へのインタビューで著者はまた“違和感”を感じます。「サカイタイゾー」には、何か謎がある、と。
 著者は渡米します。そこで、「サカイ」を直接尋問した言語士官に出会うことができました。(日本で英語は敵性語でしたが、アメリカは1941年6月に海軍日本語学校を開設し、通訳・翻訳者を養成しました。校内では英語は禁止され朝から晩まで日本語漬けだったそうです。戦時中1000人の言語将校がボールダー校から巣立ちましたが、その中の一人がドナルド・キーンです) 「サカイ」は、彼を捕らえたロバルト中尉、そして言語士官ホワイトに強烈な印象を残していました。どちらもわずか数時間しか話をしていないのに、二人が終生その強烈な印象を持ち続けるくらい。
 「サカイ」が実際に行なった行為について知った著者は、衝撃を受けます。当時の日本の世相・戦陣訓などから予想できる行動からは、あまりにかけ離れた内容だったのです。そして著者は「愛国心」についても考えます。私も考えます。「国を愛するとは、どういうことか」と。自決・玉砕・万歳突撃などで亡くなったたくさんの人々、それらから生還した人、そういった人たちの前で、あまりお気楽に「愛国心」という言葉を振り回すことはしない方が良い、とも思いますが。
 もう一つ。「真実」って何だろう、とも私は考えます。「写真一枚」にさえその裏には意外な真実が隠れている(ように見えます)。だったら、私が見ている(と思っている)現実の“裏”には、どのような真実が隠れているのだろう、と。
 「紋切り型のイデオロギー」の対極に位置する本です。「謎解き」の面白さもありますが、過去と現在と未来についてじっくり考えたい人に、お勧めします。



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