【ただいま読書中】

おかだ 外郎という乱読家です。mixiに書いている読書日記を、こちらにも出しています。

練習曲

2014-08-26 06:50:57 | Weblog

 ピアノの練習曲はいろいろありますが、たとえば「○○のピアノソナタのための練習曲」なんてものがあったら便利かもしれません。その練習曲集を一冊やったら、本物の「○○のピアノソナタ」が弾けるようになっている、という寸法です。もしかしたら「リストの超絶技巧練習曲のための練習曲集」なんてものは“実用的”かもしれません。そして発表会で本物の代わりにその練習曲を代用として使ったらそれを聴いた人が……なんてシチュエーションで小説が一冊書けそうな気もしてきました。私はピアノも弾けないし小説も書けないのにね。

【ただいま読書中】『ブルクミュラー25の不思議』飯田有紗・前島美保 著、 音楽之友社、2014年、1900円(税別)

 著者がプロローグで語っていますが、昭和の子供たちは「ブルクミュラーとはなんぞや」なんてことは教わらず、「バイエルがすんだから次はブルクミュラーね」と与えられたものをそのまま何も疑わずに練習するものでした。これが人名だなんて、私は今日初めて知りましたよ。さらに「ブルクミュラー」には『25の練習曲』だけではなくて『18の練習曲』や『12の練習曲』もあるのだそうです。おやおや。
 さて『25の練習曲』ですが、著者が確認したら日本では14社から29も版が発売されているそうです。なお改訂は今も続けられていて、たとえば全音楽譜出版版では1997年に大きな改訂が行われたのだそうですが、そこでは作曲者名も「ブルグミュラー」から「ブルクミュラー」になったそうです。そういえば私が記憶しているのは「ブルグミュラー」ですね。曲のタイトルにも変更があって、かつての「スティリアの女」は「シュタイヤー舞曲(あるいはシュタイヤーのおどり)」となっているそうです。曲集ラストの「貴婦人の乗馬」は今は「乗馬」ですし、時代が移ると「女性」は姿を消すんですか?
 本書の40~41ページには、各社の曲タイトル比較が表になっていますが、各社共通なのは「タランテラ」くらいで、あとは見事にばらばらです。
 フリードリヒ・ヨハン・フランツ・ブルクミュラーは、1806年南ドイツのレーゲンスブルクで生まれました。34年にパリに移住、ファーストネームもフランス流のフレデリックとして親しまれる作曲家およびピアノ教師として大活躍をすることになります。残した作品は400以上ですが、そのほとんどがピアノ曲です。彼の活動時期は、リストやショパンと重なります。
 バレエ音楽にもブルクミュラーは関係しています。「ジゼル」にはブルクミュラーの「レーゲンスブルクの思い出」が挿入されました。そして「ジゼル」から2年後の1843年には彼が全編音楽を担当したバレエ「ラ・ペリ」が初演されます。これは当時評判となり、ヨーロッパ各地どころか、アメリカでも上演されています。
 「バイエル」が日本にやって来たのは明治13年。では「ブルクミュラー」は? 最古の証拠は明治22年(1889)長崎活水女学校の音楽科のカリキュラムです。ここにチェルニー100番と並んでブルクミュラー25の練習曲が教材として載せられています。そしていつのまにか「バイエル」→「ブルクミュラー」が“定番”となったわけです。ブルクミュラーが知ったら、驚くでしょうね。ピアノ教師ですから、喜んでくれるとは思いますが、彼の意図通り練習曲集が機能しているのかどうかは、ちょっと気になります。



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