【ただいま読書中】

おかだ 外郎という乱読家です。mixiに書いている読書日記を、こちらにも出しています。

専門家の意見

2021-06-05 08:25:22 | Weblog

 コロナに関して政府は何かあると「専門家の意見を聞いてから」と記者の質問を強制終了させていましたが、実際に専門家が意見を言うと無視し続けてきました(「GoToトラベル」の強行なんかその象徴)。それどころか最近は「立場をわきまえろ」とかの反発や非難が増えています。結局「専門家の意見」って、政治家にとっては、何?

【ただいま読書中】『日本史サイエンス ──蒙古襲来、秀吉の大返し、戦艦大和の謎に迫る』播田安弘 著、 講談社(ブルーバックスB2149)、2020年、1000円(税別)

 日本侵略のため、フビライハーンは高麗に軍船建造と3万人以上の人員の徴用を命じました。そこで高麗がどの程度の軍船を準備できたか、を著者はエンジニアの目で分析します。内部構造まできちんと設計して、その船に何人(と軍馬が何頭)乗れるかを計算しています。すると、通説の4万とは違って蒙古軍は2万6000、しかもそのほとんどは高麗人の歩兵、ということがわかりました。対する日本軍は、史料によれば文永の役では5000騎。それに歩兵郎党が5000、ロジに5000。
 元艦隊の多くの兵士は船酔いに苦しんでいたはずです。さらに敵前上陸ですが、著者は水深と地形さらに潮の干満から投錨位置を割り出し、上陸と荷揚げには1日以上かかる、と割り出します。すると、通説とは違った戦闘が見えてきます。そして、上陸初日の夜に「なぜか」蒙古軍が軍船に引き上げた、理由も。このへんの展開は実にスリリングですが、けっこう説得力があるように感じます。さらに「日本の一騎打ち固執」対「蒙古軍の集団戦法」という通説にも疑問が投げかけられています。
 秀吉の「中国大返し」にも著者は疑問を持っています。一人30kgを担いだフル装備の2万人が200km以上を徒歩で8日間で移動し、しかもすぐ戦闘ができるとは、技術的に不可能ではないか?と。ではどうやったらそれが可能になるか、をエンジニアとして解析したら、「本能寺の変」そのものに対する疑問が浮上してくる……いやあ、こちらもまたスリリングな展開です。たとえば、「メッツ値」という指標を使うと、大返しの最中の兵士ひとりは、1日に3700キロカロリーを必要とする、と計算されます。では、それだけの食料をどうやって準備します? シンプルにおにぎりだけ食べる、としても、おにぎり40トンを作るための米をどこから集めるか、水はどうするか、宿場町で調理をするとして、町まで運ぶ馬をどこから調達するか、馬のための飼い葉や水はどこから調達するか(そのための馬がさらに必要になります)……さらに、無理な長距離行軍は、それだけで人員を損耗します(ナポレオンのモスクワ遠征、インパール作戦、バターン死の行進など、例はいくらでもあります)。さらに時期は梅雨。路面は泥濘です。体力は奪われるし、足軽の藁草履も補給が必要です。ものすごく不可能に近い事業に見えます。
 その「不可能」を「可能」にするために著者はいくつかの設定を置いてみました。その中で一番現実味があるのは、「海路」の利用です。ただ、軍勢を全員乗せるのは難しそうなので、「上の人」と「兵士の携行品(一人あたり30kgの装備)」を船で一気に運んでしまって、兵士は身軽に移動する、という実現可能な手段です。
 戦艦大和は「無用の長物」という通説にも著者は異議を唱えます。そもそも、当時の日本のGNPはアメリカの9%。正面切ってまともに戦って勝てる相手ではありません。しかし、アメリカ海軍にも「パナマ運河」というハンディがありました。パナマ運河を通過できる戦艦が搭載できる砲は16インチ(41センチ)までだったのです。ならばそれを上回る18インチ(46センチ)砲を搭載した戦艦だったら、アメリカ艦隊との艦隊決戦に勝てる、という見込みが生じます。さらにドイツと挟み撃ちをしたら、アメリカの大西洋艦隊は太平洋には回って来られません。問題は、時代が航空機の時代になっていたこと。なにしろ大和完成の8日前に、まさに日本の連合艦隊が航空機を使うことで真珠湾攻撃を成功させていたのです。さらにその二日後にはマレー沖海戦で、またもや日本の航空機が大戦果。ぺらぺらのアルミ製の小さな飛行機が、重厚長大な英戦艦を沈めてしまったのです。世界はショックを受けました。大和に魂があったなら、大和もまたショックを受けていたことでしょう。
 本書からは「歴史の教訓」が学べます。そして「日本の強み」と同時に「その強みを活かせない日本政治の弱み」も。現在のコロナ禍でその「日本の弱み」が全力で展開中ですが、「歴史は繰り返す」ですませて、いいのかな?

 



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