【ただいま読書中】

おかだ 外郎という乱読家です。mixiに書いている読書日記を、こちらにも出しています。

酔っ払い操縦

2018-11-29 07:21:35 | Weblog

 最近日本の航空業界ではパイロットの酔っ払いあるいは酒気帯びが問題になっています。ところで、アルコールが入っていても平気で操縦しようとするパイロットって、日常生活では酔っていても酒気帯びでも平気で車の運転をしているんじゃないです?

【ただいま読書中】『福島安正と単騎シベリヤ横断(下)』島貫重節 著、 原書房、1979年、1400円

 ベルリンを出発して、ロシア占領下のポーランドを経由してロシアの首都ペテルブルグまでは45日の旅でした。ここまでは足慣らしです。下巻は、福島がペテルブルグを出発するところから始まりますが、1万4000km440日の冒険の始まりなのです。
 ペテルブルグから旧都モスクワまでは720km、雪解けの悪路に悩まされて16日かかりました。二つの都をつなぐ(鉄道に平行して走る)主要街道なのに、あまりに寂しい光景に福島は強い印象を得ています。日本だったら、東海道がずっと原野の中、といった感じなのでしょう。
 福島が出会ったロシア人は、盗賊のたぐいもいましたが、基本的には「良い人」ばかりでした。ただ、「シベリヤ鉄道建設のスパイ目的ではないか」という疑いも浮上したため、福島はモスクワからの東進ルートを鉄道から十分離れたところに設定します。
 愛馬凱旋号が斃れ、福島はすぐ次の馬を手配します。二番目のウラル号は去勢していない雄馬のため6月になると発情問題が発生します。さらに、蚊・虻・蜂・蝿などが大発生。
 明治25年7月、福島はウラル山脈を越え「シベリヤ」に入ります。当時のシベリヤは軍政下にあり、開発のために、罪人や反乱に参加したポーランド人、ウラルの西側各地の食い詰めた貧民などが強制移住をさせられていました。福島は悲惨な状況を直視せざるを得なくなりますが、そこにさらにコレラの流行が。住民は衛生知識が皆無で、無知が死を大量に発生させていました。ただ、衛生知識を欠いた人たちを「低級」と評価する福島自身、「生水を飲まない」以外は、コレラに有効だと当時言われていた阿片と精神論で乗り切っているのですから、私の目には「低級」は言いすぎではないか、と見えます。
 馬一頭ではどうも心許ないので,キルギスからは二頭体制で進むことになります。外蒙古では泊まれる町はなく、貨幣経済もまだ行き届いていないため、物々交換が必要です。荷物はどんどん増えます。9月になると、冬支度も始めなければなりません。防寒具なども増えます。道案内をそれも二人雇ったのでそのための資材も必要です(道案内が一人だと、彼が帰る道中が危険なのでもう一人連れが必要、ということでした)。福島が踏み込んだ外蒙古は「国境」のはずですが、ロシアも清もその地をきちんと把握できている様子はありませんでした。ただ、清朝のあまりの無策ぶりと清の役人の高慢ぶりを見て福島は「外蒙古はロシアにつくのではないか」と予感しています。
 11月のバイカル湖は氷点下25度。これでもまだ湖は結氷しておらず、汽船の往来があります。しかし福島は騎乗で周囲を見て回ります。将来シベリア鉄道が敷設される場所の偵察ですが、バイカル湖南は地形が悪く鉄道建設には時間がかかることを掴みます(これが日露戦争開戦時期決定に重要なデータとなりました)。イルクーツクでは人口統計も見せてもらい、ロシアによるシベリア移住が20年で100万人の規模であることも福島は知ります。
 氷点下30度以下の極寒のシベリアは、真っ白で道などわかりません。そこで旅人は「河」の上を移動します。結氷した河はわかりやすいし平坦で、町の多くは河沿いですから迷う心配が少ないのです。道中福島は氷点下40度を連日記録していますが、彼が持参した寒暖計は氷点下40度までしか測定できないものだったため、彼が経験した最低気温はそれ以下だった可能性が大です。ちなみにこんな真冬にも「井戸」が機能しています。住民は結氷した河の氷に穴を開けそこから下の水を汲んでいたのです。落馬事故で頭に重傷を負いますが、親切な人のおかげで無事回復。アムール河の上を進むことになりますが、820km(東京から広島手前まで)の間に村落はわずかに8つだけ。日本とは全く違うスケールでものを見なければなりません。
 春になると進路を南に変え、満州を旅行します。これも軍事偵察です。シベリヤでは、大津事件で日本に対して反感を持つ人々の間をいかに上手く通過するか、も問題でしたが、満州では、無知で頑固で汚職まみれの(しかも阿片中毒者も多い)清国の役人の間をいかに上手く通過するか、が問題となってきます。6月にまた清露国境を越え、ついに終着のウラジオストクに。虻の大発生で「ああ、また夏が来た」と実感しながら福島は旅を終えます。




コメントを投稿