【ただいま読書中】

おかだ 外郎という乱読家です。mixiに書いている読書日記を、こちらにも出しています。

勝利の標

2018-02-01 19:50:15 | Weblog

 外国の侵略軍に対する勝利、で、ロシアだと「冬将軍」もありますが「スターリングラード」「レニングラード」もあるし、ベトナムだと「ディエンビエンフー」です。だけど日本だと「神風」。なんだか“負けた"気がします。

【ただいま読書中】『最後の高地 ──小説ディエンビエンフー』フー・マイ 著、 栗田公明 訳、 東邦出版社、1975年、980円

 1945年8月革命から戦争が始まり、1954年フランスに対するベトナムの独立運動は9年目に入っていました。フランス軍費に占めるアメリカ出費の割合は、51年には15%でしたが、54年には80%になっていました。泥沼から一気に逆転を狙うナヴァール(フランスのインドシナ派遣軍総司令官)は、険しい山に囲まれたディエンビエンフーに落下傘部隊を降下させて堅固な陣地を構築し、それを拠点に北部ベトナム地域の解放区をすべて奪取しようと考えました。ベトナム人民軍(ベトミン)は、3箇月の包囲戦と55日間の激しい戦闘で、ディエンビエンフーを制圧、その結果ジュネーブ協定が成立します。著者はこの戦いに一将校として参加していました。本書で扱われるのは、激戦の中でも最重要地区とされていた「A−1高地」をめぐる戦いです。
 砲撃を受けながら前進する兵隊たちは、立ちふさがる鉄条網や地雷を、ダイナマイトを仕掛け自分のライターで導火線に点火することで突破していきます。ただし、援護物はありません。機関銃に撃ちまくられながらやっとダイナマイトを爆発させたら、こんどはその爆発を目印に敵の砲弾が辺り一面に降り注ぎます。やっと敵の掩蔽壕に飛び込んでも、背後、というか、敵の側には入り口が開いているから敵はそこに丘の上から射撃を集中します。ベトミン軍はどんどん人数を減らしていきます。
 民族主義のイデオロギーで結束した勇士たちの決死の物語、かと思っていましたが、本書に登場する兵士や将校は、けっこういろんな性格を持っています。というか、実際にそこにいた著者はそういった様々な人たちと一緒に戦っていたのでしょう。
 石のように硬くてツルハシも受けつけなかった土は、砲弾によって耕されていきます。水がないため自分の尿を飲むエピソードが複数回登場しますが、これは著者の記憶に深く刻みつけられた体験だからでしょう。
 両軍とも消耗疲弊し、局面は一時膠着状態となってしまいます。そこで行われるのが「思想集会」
というのがいかにも共産主義らしいですね。敵を撃破できないのは思想が堅固ではないからだ。だったら思想を点検したら局面は打破できるはずだ、という論法です。手法は自己批判。ただし「必ず自己批判をして自分の中の問題点を指摘しなければならない」という「義務」ですから、これはしんどい。「ばか正直者」や「小心者」ほど損をするのではないか、なんて余計な心配をしてしまいますな。
 ベトナム中から補充兵がやって来ます。まだ若い人たちを見て古参兵は、戦争が“世代交代"をしていることを実感します。そして、決戦の朝。フランス軍陣地の地下施設の直下にトンネルを掘って1トンのダイナマイトを仕掛け、それを爆破すると同時に突撃。高地の背後にある秘密の道もすでに発見されているので、駆けつけようとする援軍はそこで足止めの予定です。上手くいけばそれであっさり高地は落ちるはず。だけど戦争で「予定通り」は普通ありません。ディエンビエンフーでもやはり……
 北ベトナムの奥地、少数民族が住む土地で「ベトナムの運命」が決せられたのですが、実はこれは「ベトナム戦争」の始まりでしかありませんでした。どうしてアメリカはここまでベトナムに“肩入れ"をしたんでしょうねえ。いや、「ドミノ理論」は知っていますが、それでここまでの資金と兵力をつぎ込んだことをすべて説明できないのでは、と私の直感はささやくのです。