【ただいま読書中】

おかだ 外郎という乱読家です。mixiに書いている読書日記を、こちらにも出しています。

決まり文句

2015-10-22 06:44:48 | Weblog

 小渕さんが「大変なご心配をおかけしましたことをおわび申し上げます。」と言っているそうですが、ということは「心配していない人(怒っている人とか不快に思っている人)」には詫びない、ということなんでしょうか。
 まあこういった場合政治家はまず間違いなく「ご心配」という決まり文句を使いますが、「自分は心配されている」という、すごく自己中心的な響きを私は感じます。

【ただいま読書中】『天使の囀り』貴志祐介 著、 角川書店、1998年、1700円(税別)

 冒頭に電子メールがずらずらと登場するし、タイトルには「囀(さえず)り」と入っているから、テーマはツイッターかな?なんてまず思いましたが、出版年を見るとちがいますね(英語版のツイッターは2006年から)。
 アマゾン探検隊に同行した作家の高梨光宏は、日本にいる恋人の北島早苗に、なにやらピントがずれたメールを出しています(私はこの時代のアマゾン奥地でどうやってネット接続をしているのか、に興味を持ちますが)。医師の北島の見立てでは、高梨はタナトフォビア(死恐怖症)に取りつかれています。しかしアマゾンでの“トラブル”のあと、高梨は人が変わっていました。死の話題を避けなくなり、異常な食欲を示し、さらに「天使の囀り」が聞こえるようになっていたのです。そして、死を恐れていた高梨は、「天使の囀り」が聞こえるようになり死を愛好するようになりとうとう自殺してしまいます。さらにアマゾン探検隊の他のメンバーも次々自殺を。
 次に登場するのは「蜘蛛恐怖症」の青年。ネット中毒でゲーム中毒のプー太郎ですが、ネットで不思議な「研修」を見つけて参加し、そこで「聖餐」を受けてしまいます。世界が変容します。これまで全く上手くいかなかった対人関係やアルバイトが上手くいくようになったのです。しかし、同時に「研修」を受けた人たちは次々「天使の囀り」が聞こえるようになります。
 天使の羽根は猛禽類の羽根である、とか、地球で最も成功している多細胞動物は線虫だ、とかなにやら面白い指摘も登場します。そして、最初からずっと登場人物たちにつきまとう蛇のイメージ。髪の毛が蛇のメデューサ。
 そして、またもや異様な自殺が発生します。そして、ついに驚愕の真相がその姿を現します。まるで憑依したかのように人の脳をあやつる○○が(ネタバレ防止で伏せます)。ところが話はそこで終わりません。もっと背筋がぞっとする話が、○○の背景にあったのです。
 本書を読みながら私は『パラサイト・イブ』を思い出していました。自分が操られる対象でしかない、という恐怖が蘇ります。ただ、本書での「本当の悪者」は誰なのか?の疑問には回答はありません。そうそう、「生態系の中の人間」という観点は、『天使の囀り』の方が上手に生かしています。ただ「医者のインターン」は何十年も古いですけど。
 古いと言えば、本書には「新しい時代」も描かれています。フロッピーディスクが現役で、MOディスクやCD−Rが先端テクノロジーなんですから。いやあ、懐かしい。