【ただいま読書中】

おかだ 外郎という乱読家です。mixiに書いている読書日記を、こちらにも出しています。

危険な車

2015-10-01 06:59:42 | Weblog

 ちょっと事情があって、短期間限定ですが、普段のガソリン車ではなくてハイブリッド車に乗っています。年式は違うけれど同じ車種なのに、ドライブフィール(特に加速や減速の感覚)が違う点が運転していて面白いし、メーターを見ると「現在の燃費」やら「現在回生ブレーキが作動中で運動エネルギーを電気に変換中」なんてことがわかるのも楽しいものです。ところで、そういったことがメーターでわかるということは、私はその時外を見ていません。これは危険です。危険な車です、というか、私が危険な運転をしているのですが。

【ただいま読書中】『植物が出現し、気候を変えた』デイヴィッド・ビアリング 著、 西田佐知子 訳、 みすず書房、2015年、3400円(税別)

 タイトルだけ見たら「そうだよね」と言いたくなるものです。その逆(植物が滅びる)で地球の環境が激変するだろうことを思えば、植物の出現は「地球」を変化させたことは明らかですから。
 著者はまず宇宙に読者を招待します。地上の植生を理解するブレイクスルーは、人工衛星からの地球の観察だったのです。
 そして過去へ。化石記録によると、最初に海から上陸した植物には「葉」がありませんでした。茎で光合成をおこなっていたのです。そこから種の多様化が始まりますが、植物が葉を獲得するためには数千万年が必要でした。これは、植物が「葉の遺伝子」を獲得したからでしょうか、それとも以前からその遺伝子をもっていたが環境の何かがその発現を阻んでいた? どうも後者が正解のようです。化石土壌の調査で、ちょうど植物が葉を獲得する時代に大気中の二酸化炭素濃度が激減しているのです。二酸化炭素の減少は地球に氷河期をもたらしましたが、同時に植物に「葉」をもたらしたのです。ちょうど酸素濃度の上昇がカンブリア紀の海洋生物の“爆発”をもたらしたように。面白いのは、二酸化炭素濃度は、葉の気孔の数にも影響を与えていることです。これにより水分蒸散(と葉の“体温”コントロール)が左右されます。
 巨大なトンボが飛び交っていた石炭紀に、大気中の酸素は30%もあったと考えられています。大量の植物が酸素を生産し、そして石炭になっていたのです。こちらでも面白いのは、酸素が光合成を司る酵素に影響を与えていることです。様々な要素が植物に影響を与えます。
 恐竜はなぜ絶滅したか、は大きな論争テーマですが、では「恐竜時代がなぜ始まったか」はどうでしょう。実は2億年前のシベリアの大噴火で大気中にどんと増えた二酸化炭素によって起きた「地球温暖化」がきっかけだったのです。ただ、炭素同位体の検査では、海底のメタンハイドレートからも大量の炭素がその時に供給されたようです。ではそのとき「地球環境」に何が起きていたのでしょう?
 南極点到達でアムンゼン隊に先を越されたスコット隊ですが、失望に包まれた帰途、地質調査をおこない16kgもの化石を収集していました。それに含まれていた2億7千万年前のグロッソプテリス(絶滅した裸子植物)の化石が、大陸移動説を裏付ける貴重な証拠となります。北極圏からも植物の化石が続々見つかりました。こちらは大陸移動ではなくて、5000万年前には北極圏が温暖だった証拠です。しかし、半年も続く夜を植物はどうやって生き延びていたのでしょう?
 アーチボルド・ゲイキーの「現在は、過去を解く鍵である」という言葉が本書にありますが、過去を解く手がかりは豊富ではありませんし、化石が残りやすいものだけが化石として残る、といった明らかな偏りがあります。それでも科学者は仮説を立て続けます。しかし、美しい仮説も醜いデータ(トマス・ハクスレーのことば)によってぶちこわされていきます。それでも著者は「理論を作るとは、ある事実を説明するだけではなく、もう一つ上の段階に進むことだ」と述べて、限られたデータから少しでも真っ当で美しい理論を作り上げようとします。それはその理論が、「地球の過去」を読み解くだけではなくて、「未来」を予測する手がかりとしても使えるからでしょう。
 「化石」と言えば、私はついつい動物のものばかりを思いますが、植物の化石からも非常に多くのことがわかる、というのは嬉しい教えでした。地球の過去や未来に興味がある人には、とても良い本です。