消された伝統の復権

京都大学 名誉教授 本山美彦のブログ

現代米国の黙示録 04 白い馬と『レフトビハインド』 2 

2006-08-23 00:13:34 | 現代宗教

 「ヨハネ黙示録」第6章第8節「私は見た。見よ。青ざめた馬であった。これに乗っている者の名は死といい、その後にはハディスが付き従った。彼らに、地上の4分の1を、剣と飢饉と死病と地上の獣によって、殺す権威が与えられた」とある。青ざめた馬に乗っている者は、黙示録にある4つの馬上の者のうちの最後に出てくる死のことである。これを荒唐無稽なものでなく、聖書の預言に従って歴史は進行しているとの立場から書かれた小説『レフトビハンド』が全米で650万部を超す第ベストセラーになり、しかも、この小説の仕掛け人がメガ・チャーチの現役の司祭であるという点に、現在の米国人のもつ特異なナショナリズム(=正義を世界に伝導し、実現させる自由米国の義務感)の構造が如実に現されている。

 

  小説では、改心した牧師に「艱難時代」(トリビュレーション)の到来を語らせている。

 

  「7年の艱難時代はすでに始まっている。・・・この7年の間に、神は3つの審判を下されます。それは、封印の審判と呼ばれる巻物の7つの封印、7つのラッパ、7つの鉢のことです。・・・巻物が開かれ、封印が解かれると、審判が明らかになります。・・・最初の4つは、黙示録の4人の馬に乗った者によって現されます。・・・皆さんの中で、まだ聖書の預言の教えがただの象徴だと考える人はいますか」。

 

最初に来るのは、白い馬に乗ったものである。ヨハネ黙示録第6章第1・2節は言う。

 

「また、私は見た。小羊が7つの封印の1つを解いたとき、4つの生き物のうちの1つが、雷のような声で『来なさい』というのを私は見た。見よ。白い馬であった。それに乗っている者は弓をもっていた。彼は冠を与えられ、勝利の上にさらに勝利を得ようとして出て行った」。

 

 「艱難時代」を生き抜くには、こうした聖書の預言を聞けというのが、この小説のメッセージである。そこには、じつに注意深く米国人の正義が盛り込まれている。 牧師は言う。「白い馬に乗っている者は反キリストで、平和を約束し、世界を統一する詐欺師として世に姿を現します。旧約聖書のダニエル書第9章第24節から27節には、彼がイスラエルとの条約に署名すると記されています。彼は、初めはイスラエルの友人にして守護者として現れます。しかし最後には、征服者、破壊者になります」。 

 

  小説は、そのイスラエルのことを、ユダヤ教徒で改心した一人のラビにイスラエルの神殿のことについて語らせる。ダビデが神のために神殿を建てようとしたが、あまりにも血で汚れたダビデにそれを許さず、ソロモンの手でエルサレムの地に建てさせた。それは壮大な神殿であった。人々は神殿があるかぎりエルサレムは難攻不落であると信じていた。しかし、この神殿は、ネブカデネザル王によって破壊された。その70年後に再建されたがみすぼらしいものであった。その神殿は、ヘロデ大王によって建て替えられた。これはヘロデ神殿として知られるようになっていた。その後、ローマの将軍ティトスがエルサレムを包囲した。ユダヤ人たちは、異教徒の手に渡るよりは自分たちで壊した方がいいとして、ヘロデ神殿は破壊された。ところが、この神殿があった山はイスラムによって占領され、岩のドームという彼らの寺院になってしまっている。この神殿の復活こそがユダヤ人の夢であったと。

 

   最大の悪魔=反キリストのカルパチアが、イスラエルと7年期限の平和条約に調印した。カルパチアは国連を「グローバル・コミュニティ」(世界共同体)に変え、世界の武器の10%を独占し、世界の金融機関とメディアを掌握し、事実上の世界政府の総統になっていた。イスラエルのミラクル肥料の管理権を彼はイスラエル政府から得た。イスラエルとの和平を条件として、その魔法の肥料を各国に与えた。さらに彼は世界統一宗教の樹立に成功した。自らをメシアとして世界の宗教に君臨するようになった。その上で、イスラエルに岩のドーム寺院を撤去してイスラエルの神殿建設に協力するとまで言い切ったのである。米国大統領ですら、カルパチアを世界政府の指導者として宣言させられてしまった。

 

 しかし、先ず国家元首として米国大統領がカルパチアの偽物性に気づいた。それを察知したカルパチアは米国の主要都市を攻撃した。ここに、第三次世界大戦が始まった。2番目の赤い馬に乗った戦争がやってきたのである。そして、米国の正義が執拗に語られる。イラクに設立されたニュー・バビロン(世界政府の首都)が米国民にとっての主要な敵になる。この小説が政治的な1つの方向性を新しい宗教意識の高揚によって占めそうとしていることはあまりにも明らかである。しかも、荒唐無稽な形で。にもかかわらず、この小説が多くの米国人に受け入れられた。


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