読んで、観て、呑む。 ~閑古堂雑記~

宮崎の某書店に勤める閑古堂が、本と雑誌、映画やドキュメンタリー、お酒の話などを、つらつらと綴ってまいります。

3年ぶりの熊本がまだせ旅(第1回)熊本の守り神・藤崎八旛宮、そしてレトロ感と生活感あふれる子飼商店街を散策

2022-10-18 23:36:00 | 旅のお噂
10月8日から10日にかけて、熊本へ出かけてまいりました。
熊本にお邪魔するのも3年ぶりのこと。熊本地震の被害から見事に甦った、熊本城の天守閣に感激したり、街歩きを楽しんだり、美味しいものをたっぷり食べたり飲んだり(おかげで、帰宅して体重を測ったら2キロばかり増えてしまっておりました・・・)と、久しぶりとなる熊本を存分に満喫いたしました。
これから何回かに分けて、3年ぶりの熊本旅のご報告を綴っていきたいと思います。

20歳のとき、当時の仕事の関係で1年ほど住んでいたことがありながら、その後長いこと足を運ぶことのなかった熊本に再び足を向けるきっかけとなったのが、6年前に起きた熊本地震であります。
当時、報道によってさかんに伝えられていた、熊本の被害の大きさに心を痛めたわたしは、自分にできることでなんとか、熊本に対して「がまだせ」(〝がんばろう〟という意味の熊本ことば)というエールを送りたいと考え、地震の起きた年の秋に熊本へお邪魔いたしました。天守閣の瓦が無惨に剥がれ落ち、周囲の石垣や塀が倒壊してしまっていた熊本城や、古くからあった住宅が倒壊寸前になっていたりといった地震の爪痕に、あらためて心を痛めました。
その一方で、美味しいものや素敵な方たちと出逢いつつ、熊本の街が持つ歴史や文化の奥深さを知ることができたことで、すっかり熊本の魅力に取り憑かれてしまい、それから年に一回は、熊本への「がまだせ旅」を続けてまいりました。傷ついていた熊本城が徐々に復旧されていくのを目にしながら、美しく甦るときを心待ちにしていたものです。
そんな「がまだせ旅」の機会を奪ったのが、かのいまいましいコロナ莫迦騒ぎでした。一昨年(2020年)の5月の連休にも熊本へ出かけるべく、ホテルや高速バスの予約も入れていたのですが、コロナ莫迦騒ぎで世の中が錯乱する状況を前にして、断念せざるを得ませんでした(あの時の悔しさはいまだに忘れられません)。それから2年半近く、熊本へ行きたくても行けないという腹立たしくも情けない日々が続きました。
そうした経緯があったので、3年ぶりとなる「熊本がまだせ旅」に出かける10月の連休が、もう待ち遠しくてなりませんでした。

ワクワクしながら迎えた10月8日(土曜)の早朝。無事に早起きすることができたわたしは、タクシーに乗り込んで宮崎駅へ向かい、そこから発車する熊本行きの高速バス「なんぷう号」に乗りこみました。そしてバスは予定時刻通りの6時5分、一路熊本へ向けて出発いたしました。
バスの窓から外を見ると、空模様は曇り。ですが、ひとまず雨の心配はなさそうでありました。わたしはホッとした気分とともに、コンビニで買ってきた缶ビールをプチンと開け、道中の無事を祈りつつ乾杯いたしました。・・・ハイ、旅に出るときには欠かせない〝儀式〟でございます。


バスの座席はほぼ満席状態。こうやって連休に出かける人たちがまた増えてきているというのは、実にいいことでありますねえ。
途中、2ヶ所のサービスエリアでの休憩を挟みつつ、3時間40分後の午前9時40分過ぎ、ついに熊本市の中心部に到着いたしました!

市電も走る広い通りの向こうを見ると、久しぶりに眺める熊本城の勇姿が垣間見えます。すぐにでもそちらへ向かいたくなってウズウズいたしましたが、お城の見物は午後にゆっくり行うことにしておりましたので、ここはウズウズする気持ちをハイドウドウと抑えつつ、まずは熊本の守り神・藤崎八旛宮へ向かいました。
1000年近くの歴史を誇る、熊本を代表する神社である藤崎八旛宮。毎年9月には秋季例大祭が行われ、その神幸式には御神輿や飾り馬などからなる行列が、街の中心部を練り歩きます。
熊本地震のあった年の9月に訪れたとき、その神幸式の行列を目にすることができました。まだ地震から日が浅かったこともあり、例年よりはずっと小さな規模で開催されたとのことでしたが、その行列からは復興に向かって力強く歩んでいこうとする熊本人の心意気が伝わってくるようで、大いに感銘を受けたものでした。今年の神幸式も9月18日に開催される予定でしたが、台風14号の接近によって延期となってしまい、今月(10月)の23日に開催されるとのことです。
賑やかな街の中心部から15分ほど歩き、藤崎八旛宮にやってまいりました。


地元の方らしき人をちらほら見かけたものの、境内はとても静かな雰囲気でした。熊本に着いて高まっていたワクワク気分をいっとき落ち着かせ、今回の旅の無事を祈願いたしました。
お参りを終えて立ち去ろうとすると、本殿の中から雅楽の調べが聞こえてまいりました。正式な参拝をされている方がおられたのでしょう。その優雅な響きに、気持ちが澄み渡るような思いがしたのでありました・・・。

藤崎八旛宮での参拝を終えたわたしは、そこからほど近いところにある子飼商店街へ足を伸ばしました。普段はクルマが入れない、400メートルの狭い道沿いに、大小40軒ほどのお店が軒を連ねている商店街です。熊本地震のあった年の秋にも一度立ち寄ったのですが、今回久しぶりに覗いてみたくなり、足を伸ばしたという次第であります。


九州を中心にチェーン展開しているスーパーマーケット「マルショク」の子飼店もあるものの、店舗のほとんどは小さな個人商店。八百屋さんの店先では、その日入った野菜や果物の美味しさを、やってきたお客さんに元気な声で説明している店主のおじさんの姿。肉屋さんの店先には、いかにも美味しそうな揚げたてのコロッケやメンチカツなどの揚げ物が並んだケース。そして、あちこちから聞こえてくる熊本ことばでの会話・・・。そのひとつひとつがとても懐かしく感じられます。まさしく、昭和の雰囲気を色濃く残す〝下町の人情商店街〟にして〝熊本の台所〟といった趣き。からし蓮根の専門店があったりするのも、熊本らしくていいですねえ。

商店だけでなく、飲食店もそこかしこにあったりします。関西風のお好み焼きや焼きそばのお店の店先には、「20年以上値上げなし」などと謳っている看板が。こういうのも、下町の商店街の底力を感じさせてくれますねえ。

元気よく頑張っているお店が立ち並ぶ一方で、通りにはシャッターを下ろしたままの空き店舗もちらほらと。6年前に訪れた時に立ち寄った小さな古本屋さんも、すでに店じまいしてしまっておりました。商店街を取り巻く現実には厳しいものもあるということを、あらためて感じさせられます。
しかし、長く続いている店舗に混じって、最近できたばかりと思われるお店も何軒か見かけることができました。古き良き風情を守りつつ、新しい息吹も取り込んでいこうとする、子飼商店街の底力を見る思いがいたしました。
新しい息吹といえば、商店街の中にはこんなボードやのぼり旗も。


イラストを手がけたのは、熊本在住の漫画家で、熊本のいろいろな場所をドライブして回る主人公を描いた『今日どこさん行くと?』(KADOKAWA刊。当ブログの紹介記事はこちら。→読むと熊本へ出かけたくなる漫画『今日どこさん行くと?』)で知られる鹿子木灯さん。こういったキャラクターを起用しての取り組みも、幅広い年齢層を取り込もうという商店街の意欲を感じて、なんだか嬉しくなりました。
(後になって知ったのですが、これは子飼商店街を舞台にした鹿子木さんの漫画の主人公〝こよみさん〟でした。商店街のホームページに作品の紹介と、作品が掲載されているe-bookへのリンクがあります。読むとほっこりする愛らしい作品ですので、こちらもぜひ。→子飼商店街|マンガ
商店街の中に立つお寺の入り口に、こんな張り紙が出ておりました。

「苦しいことから 逃げてはならない 楽しいことまで 遠ざかっていく」・・・いいことばですねえ。子飼商店街もまた、苦しい現実と戦いながら、これからも熊本の日常になくてはならない、楽しい場所として生き残っていくことでありましょう。次にお邪魔するときには食べ歩きでもしつつ、ゆっくりと時間をとって歩いてみたいと思います。
・・・そうそう。商店街の中には小さいながらも居酒屋やワイン酒場もありましたねえ。こういう庶民的な商店街の雰囲気に包まれながら一杯呑むというのも、なかなかオツでいいかもなあ。


そうこうするうちに、時刻はお昼どきとなってまいりました。中心街にある熊本の郷土料理のお店でお昼ごはんを・・・と考えていたのですが、電話で問い合わせるとすでに予約で満席とのこと。ううむ残念。
それならどこか別のお店に・・・ということで入ったのが、上通りのアーケード街にあるすき焼きの老舗店「加茂川」さんでした。熊本産の和牛を使ったすき焼きや鉄板料理もあるランチメニューの中で選んだのが、熊本の地鶏「天草大王」を使ったすき焼きです。もちろん、真っ昼間から生ビールもしっかりと注文。



濃厚な旨味がたっぷりと詰まった「天草大王」。焼いて食べてもタタキにしても美味しいのですが、すき焼きで食べてもまことに美味。お肉本体はもちろんのこと、その旨味が染みた野菜やうどんもまた美味しく、おかげでビールも進みましたねえ。
お腹もココロも満たされていく中で、午後からの熊本城訪問への期待感もまた、さらに増していったのでありました・・・。


                           (次回につづく)


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