読んで、観て、呑む。 ~閑古堂雑記~

宮崎の某書店に勤める閑古堂が、本と雑誌、映画やドキュメンタリー、お酒の話などを、つらつらと綴ってまいります。

3年ぶりの熊本がまだせ旅(第3回)久しぶりに立ち寄った、熊本お気に入りの酒場で憩いの夜を満喫

2022-11-05 14:11:00 | 旅のお噂
熊本城の見学と散策をたっぷりと満喫し、少々足がくたびれてまいりました。ひとまず、初日に宿泊するホテルにチェックインして、ちょいとひと息つくといたしましょう。
初日に宿泊するホテルは、熊本市の中心部にある「PLACE HOTEL Ascot」。下通のアーケード街や、そこと交差する呑み屋街のすぐそばに位置する、実に使い勝手の良さそうなシティホテル。1階にはバーもあったりするのが、いいですねえ。
チェックインするときにフロントで渡されたのが、カードキー。実は、カードキーに接するのはこれが初めてのことで、最初部屋に入るときには少々戸惑ってしまいました。だんだん慣れてはいったものの、外出のときなどに失くしたりしないよう気をつけんといかんなあ・・・などと思ったことでした。
部屋に入ってシャワーを浴び、ひと息ついているうちに、そろそろ夕方という時間帯になってまいりました。さあそろそろ、熊本呑み歩きへ出陣であります!

ホテルを出て呑みに行く前に、まずは三年坂通りのビルの中にある「蔦屋書店 熊本三年坂」を覗きました。たくさんのお客さんで賑わう店内をザッとチェックして外に出ると、入口のテラスでジャズの生演奏をやっているコンビが。

この日は熊本市中心部の何ヶ所かを会場として、ジャズフェスティバルのようなイベントが開催されている最中でした。賑わう街のど真ん中にジャズの音色が流れるというのは、なかなかイキなもんですねえ。
下通のアーケード街に入ると、そこは多くの人が行き交っていて活気に溢れておりました。その中をひとりぶらぶらするこちらの気分も、自然にワクワクしてまいります。

下通界隈のど真ん中を突っ切る「銀座通り」に出ました。ふだんはクルマが行き交っている道幅の広い通りは歩行者天国となっていて、そこでもジャズの生演奏が行われておりました。

ジャズの生演奏が流れる繁華街の雰囲気もいいもんだねえ・・・そんなことを思いつつ、まずは1軒目のお店へと入ることにいたしました。銀座通りから呑み屋さんが密集する通りに入ったところにある居酒屋「料理天國」さんであります。

馬肉や地鶏、地魚をはじめとする熊本の美味いものや、居酒屋定番の料理を手頃なお値段で味わうことのできる、地元の方々にも親しまれている大衆酒場。6年前に初めて入り、たちまちお気に入りになったお店です。
わたしがこの日はじめてのお客だったようで、一人なのでカウンターにかけようとすると、お店の方は「まだ誰も入っていないので、テーブルでも大丈夫ですよ」と、広々としたテーブル席のほうに案内してくださいました。ちょいと恐縮しつつ、テーブル席でゆったりと憩うことにいたしました。
まずは生ビールとともに、ここでも地鶏「天草大王」をタタキでいただきました。焼いて食べても、すき焼きにして食べても美味しい天草大王なのですが、ジューシーな旨味がダイレクトに、口の中いっぱいに広がるタタキが一番美味しいんですよねえ。

生ビールを飲み干し、次は球磨焼酎「川辺」の水割りとともに「サラダちくわ」を注文いたしました。


ポテトサラダを穴の中に詰めたちくわを天ぷらにしたのが「サラダちくわ」。もともとは、熊本のお弁当屋チェーン「ヒライ」の人気惣菜だったのが、今では熊本のあちこちで食べられるB級グルメとなっています。そのままでも美味しくいただけますが、ときおりソースをつけて食べてもまた旨く、これもいいおつまみになるのですよ。
「川辺」の水割りもあっという間になくなり、次は熊本の日本酒を!ということで注文したのが、阿蘇・高森町の蔵元「山村酒造」の「れいざん」本醸造です。

真っ青なラベルから受ける印象そのものの、清涼感ある飲みやすさ。これぞまさしく、阿蘇が生んだお酒という感じがいいですねえ。熊本に来るとついつい呑みたくなる、お気に入りのお酒であります。
そして熊本の味といえばこちら、アツアツ揚げたての自家製辛子蓮根!

白状いたしますと、実は蓮根が好きというわけではなく、辛子蓮根もさほど美味しいとは思えなかったわたしなのですが、このお店で揚げたてを食べたことで、揚げたての辛子蓮根の美味さを認識させられ、それからはお気に入りの食べ物となりました。もちろんお酒にもピッタリで、「れいざん」もぐいぐいと進みます。
はじめはわたし一人だけだった店内も、地元の方や観光客が少しずつ入ってきて、だいぶ活気ある雰囲気に。わたしもけっこう、いい気分になってまいりました。ここいらでひとまず切り上げるといたしましょう。

「料理天國」でお勘定を済ませ、再び銀座通りに出てみると、ジャズセッションもだいぶ、佳境に入ってきている様子でした。ステージの前に並んでいるイスに腰掛け、しばし耳を傾けることにいたしました。

演奏しているメンバーは、熊本のみならず九州各地から集まっているようで、中にはわが宮崎からやってきている方も。彼らが奏でるジャズのスイングが、ほろ酔い気分の身に心地よく響いてきます。いやあ、いい時に熊本に来たなあ・・・そんなヨロコビが湧き上がってきたのでありました。
歩行者天国となっている銀座通りは、たくさんの人で溢れておりました。延々と続いたコロナ莫迦騒ぎで、社会全体が気の滅入る雰囲気に包まれていたわけですが、こうやってたくさんの人たちが街に出て、イベントや飲食を楽しめるようになってきたことは、本当に喜ばしいことであります。


さあそろそろ2軒目に・・・ということで、その銀座通りに面したビルの中にあるバー「ADONIS BAR」に入りました。

ちょっと隠れ家的な雰囲気の本格派バーで、前々回(2018年)の熊本旅のときにはじめて入り、いっぺんでお気に入りとなったお店です。カクテルやウイスキーなど、豊富に揃った美味しいお酒はもちろんのこと、気さくなお人柄のマスター氏との会話がまた、楽しみなのであります。
とはいえ、このお店にお邪魔するのも3年ぶりのこと。果たしてマスター氏はこちらのことを覚えていてくださっているだろうか・・・若干の緊張を胸にドアを開けました。
「いらっしゃいませ・・・おお!これはお久しぶりです!」
マスター氏、しっかりこちらのことを覚えていてくださっておりました。あっという間に緊張も消えてなくなり、嬉しい気分とともにカウンターに腰掛けました。
お店の奥のほうにある窓は開け放たれていて、そこから銀座通りの賑わいが店内に伝わってきます。「きょうは外の演奏を聴きながらやってるんですよ」とマスター氏は言い、「せっかくだから窓のほうにどうぞ」と、入口近くに座っていたわたしを窓に近いほうの席に移らせてくださいました。
このお店に来てまず飲みたいのが、季節ごとのフルーツを使ったカクテル。今は何ができますか?と訊ねると、「シャインマスカットのジントニックはどうでしょう」とのお答え。おおそれは良さそうだのう・・・ということで、まずはそちらを注文いたしました。

シャインマスカットのみずみずしさと、ジントニックの爽快さがマッチした飲み心地が最高。この日は少し暑いくらいだったので、最初の一杯にはうってつけでありました。
カクテルを飲み干したら、お次はウイスキーを。これもまた、豊かなウイスキーの知識をお持ちのマスター氏のおまかせで・・・ということで、スコッチウイスキー「フィンドレーター」の8年ものを水割りでいただきました。

今回初めて飲んだ銘柄だったのですが、深みのある味と香りを持ちながらも飲みやすく、心地よく喉を潤してくれます。
マスター氏は読書好きということもあり、カウンターには書物も何冊か置かれています。「今ちょっと、この人のにハマってるんですよ」と言いつつ出してこられたのが、今年の2月に54歳という若さで亡くなられた私小説作家・西村賢太さんの本でした。

わたしと近い年代であり、下の名前が同じ(笑)ということもあって、西村さんはどこか気になる存在でありました。とはいえ、多少クセのある作風にいまいち馴染めず、しばらくその著作からは離れておりました。
ですが、マスター氏が出してこられた西村さんの本をパラパラ拾い読みしているとなかなか面白く、また西村作品を読んでみたくなってまいりました。コロナ莫迦騒ぎに踊らされ、必要以上にビビって萎縮するような世間の風潮にウンザリしまくったわたしには、西村さんのような風狂無頼の精神が、どこか魅力的に感じられたのです。
これは面白そうだなあ、ぜひ買って読んでみます・・・というわたしに、マスター氏は「よかったら差し上げますよ」とおっしゃるではありませんか!恐縮しつつも、ありがたく『随筆集 一私小説書きの独語』と『一私小説書きの日乗』(ともに角川文庫)を頂戴させていただきました。
カウンターにあった本の中でもう一冊、面白そうだと思ったのが、マスター氏お気に入りの作家でもある開高健さんの『風に訊け ザ・ラスト』(集英社文庫)。

一般の読者から寄せられた悩みごとや難問・珍問・奇問に、開高さんが持ち前の教養とユーモアを発揮しながら回答していく、という内容。これも拾い読みするとなかなか愉快で、一杯飲みながら読むのにもうってつけという感じがいたします。第一弾となる『風に訊け』ともども、買って読んでみることにいたしましょう。
思うに、わたしはこれまでも、このお店のマスター氏のような「街の文化人」「街の賢人」といえるような方々から、自分が読むべき本をいろいろと教わってきました。やはり一昨年前に逝去された、評論家・著述家の坪内祐三さんがおっしゃっていた「ストリートワイズ」を体現する、このお店のマスター氏のような「街の文化人」「街の賢人」こそ、賢しげなだけで空虚な「専門家」からは得られない、生きるために必要な知恵やヒントを与えてくれるありがたい存在であるように思います。

「ADONIS BAR」の店内も、いつしか多くのお客さんで賑やかになっておりました。その中におられた、福岡から来られたご夫妻と親しくお話させていただき、おススメの焼き鳥屋さんやラーメン屋さんを教えてもらいました。そういえば、福岡にも長らく足を運んでいなかったなあ。近いうちに、福岡食べ歩き&呑み歩き旅を計画するのもいいかもなあ・・・。
気がつけば時刻も11時近く。今回も、時を忘れるほど楽しく過ごすことができました。また必ず寄らせていただくことをマスター氏に約束しつつ、「ADONIS BAR」を後にいたしました。

ふだんは飲んだあとのラーメンを自粛しているわたしなのですが、せっかくラーメンの美味しい熊本に来たのですから、ここはやはり締めにはラーメンを・・・ということで、「黄金ラーメン」さんへ。


四角いどんぶりに盛られて出てきた、しっかりした旨味の正統派とんこつラーメンが、スルスルと胃袋に収まりました。かくて大満足のうちに、初日の熊本呑み歩きは幕となったのであります。


                            (第4回へつづく)



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