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英国GLMKⅡレーダー系統の国産化の譜系について

2022年10月02日 15時47分16秒 | 03陸海軍電探開発史

英国GLMKⅡレーダー系統の国産化の譜系について

GLMKⅡシステムの概要
昭南にて押収せる英軍・超短波標定機の原理と構造のPDF版
https://drive.google.com/file/d/1J7hVir5FsyicRD-rDc3zDQNREU32mPk2/view

陸軍の電波標定機の開発の経緯
本機「タチ3」について、戦後のことですが陸軍の技術本部の光学測器班(千葉陸軍高射学校の審査部門かもしれない)からと思われる所見を参考に示します。なお、三号機と記述されているもがタチ3のことですが、運用的にはかなり厳しい指摘がされています。
陸戦兵器総覧 1977年3月 日本兵器工業会編からの抜粋です。
電波標定機
試作は第一号から第四号まで、整備されたのは三号と四号であった。
三号機は波長三メートルで地形の影響を受けやすく調整がかなり困難であったが、目標発見距離は一〇〇キロ以上に達した。整備台数は一〇〇台程度で実際陣地についたのは二、三〇台で、故障多く十分な戦果を収めるにいたらなかった。
四号機は一.五メートルの波長で軽快に構造されたが、測定距離は二〇から三〇キロ程度であった。整備台数は一五〇台以上におよび陣地にもかなりの台数を入れたが、戦果は思わしくなかった。
この技術本部の光学測器班(千葉陸軍高射学校の審査部門かもしれない)の所見がすべてを表していますが、海軍と比較して陸軍の射撃管制レーダーの兵器化を阻害した原因がここにありま。
そもそも電波標定機は、射撃管制レーダーですので、弾が飛ぶ射撃可能範囲の20から30Kmから使用できればよく、それ以上の遠距離は早期警戒レーダーの役割です。
これを高射砲部隊では2つの機能を同時に求めものですが、早期警戒については別部隊の範疇であり、これら空襲警報情報がまず円滑に高射砲部隊にまで届かなかったことのほうが問題なので。
ここで、電波標定機に関する重要な問題点を指摘している資料を陸戦兵器総覧から抜粋します。
昭和 16 年 12 月 8 日、ハワイの真珠湾攻撃に端緒を開き、フィリピンにマレイ半島に戦線は逐次拡大していき、迅速なる攻撃とその戦果は世界を震撼させた。
その戦果の一つとして、アメリカ、イギリスの電波兵器が押収された。コレヒドールでアメリカの警戒機、シンガポールでイギリスの標定機がえられた。
現地派遣員として、陸軍技術本部の元陸軍少将小林軍二氏、東京電気の浜田技師、日本電気の小林技師が選定され、その実体が明らかになった。この敵の兵器進歩の様相は、我が国に大きな刺激をあたえた。由来刺激の大きなところには常に混乱が起こるものである。
標定機もその例にもれず、電波に対する経験を無視してただちに技術本部の光学測器班で審査研究するという大きな過ちを犯してしまった。完成を急いだためであろう。そして「鹿を追うもの山をみず」の古言をそのまま、標定機を手のつけられないものにしてしまった。
あらゆる苦心も、ついに完全な戦力とならず終わってしまったのはこのためであった。
これがわずかの期間でも登戸研究所の手で整理されて移管されて行ったならば、面目はまったく一新されていたであろう。経験は一朝にしてはできない。一つの組織には、想像のできない根強い力を持っていることを忘れてはならない。
既述のように、警戒機はこれによって体制を整えた。標定機が遅れたのはやはり主務の移管が早過ぎたためであろう。
本資料で分かることは、電波標定機の陸軍での主管を門外漢の技術本部の光学測器班としたことにあるとのことだが、正式には第二陸軍技術研究所の前身である陸軍技術本部第 2研究所(担当:観測・指揮連絡兵器)の光学測器班という一部門に担当させたことが原因であるとの指摘でる。この光学測器班は、高射砲の管制制御の専門家といったところだろう。
本来は、登戸研究所が主管すべきであったとのことだが、これは陸軍技術本部第 5 研究所(担当:通信兵器)のことのようである。
結局終戦まで、陸軍技術本部第 2 研究所の光学測器班が権限を離さなかったというこのようである。

タチ3の概要
http://minouta17.livedoor.blog/archives/18022267.html
タチ3 追加検討資料
このような背景がある中、製造メーカーである日本電気(当時は住友通信)の苦悩がはじまりますが、電波標定機として最初に開発したタチ1(日本電気)とタチ2(東芝)はシンガポールで鹵獲した英国のレーダー情報(ニューマン文書に記載されたSLC探照灯管制レーダーで実物は入手していない)をもとに開発をおこないました。
このSLC探照灯管制レーダーの特徴は、位相環(Phase ring)による等感度方式を採用しています。
勿論、射撃管制レーダーの最初の試作であることから当初から問題点を含んでいたことは理解できますが、陸軍から駄目だしされたことから、新たにタチ3(日本電気)とタチ4(東芝)の開発を進めます。
ここで、日本電気はタチ1の失敗の原因を考えると以下のとおりです。
・可搬型としたため送信機や受信機を小型のものを採用したことにより性能に制限がかかったこと。
・空中線は送信用アンテナと受信用アンテナと分離しているが、同一箇所に設置していることから相互の電波が影響し妨害を除去できなかった。
・アンテナの性能自体問題があり、地形の影響を除去できなかった。
このため、初期に計画したタチ1の機能を全面にあらため、シンガポールで鹵獲した射撃管制レーダーであるGLMKⅡシステムをベースに企画したのがタチ3です。
特徴は以下のとおりです。
・GLは可搬型ですが、今回は要地用として固定式の設備に変更する。
・GL同様に送信機と受信機は30m以上離して相互の妨害電波の影響を極力排除する。
・GL同様に、方位角測定には従来の等感度方式ではなく位相調整器によるベクトル合成方式とし、仰角測定には、ゴニオメーターによるベクトル合成方式を採用する。
GLMKⅡシステムの概要
送信車

受信車

送信機と受信機の正面操作盤

受信空中線


GLMKⅡシステムのパルス繰り返し周波数は、1500Hzを採用していますが、タチ3のパルス繰り返し周波数は、1875Hzを採用しており、理論値では80Kmまでの索敵範囲となります。
「陸戦兵器総覧 日本兵器工業会編」ではタチ3は100Kmまでの索敵ができるとの記述がありますが所詮用兵側のコメントには矛盾というか明らかな誤謬がありそうです。
なお、同様に使用周波数も異なるなど、基本的にはGLMKⅡシステムの上記特徴の概念を採用しましたが、基本的な詳細仕様や電子回路などは日本独自の考え方によるシステム構築となっています。

 

まずは、タチ3のシステム全体の構造から説明します。
山の上に残る戦争遺跡-電波標定機基礎-福岡県北九州市若松区大字小石から陣地構築事例

送信用と受信用に100m程度離れた位置に2つの構築物があります。
送信機の構築物の写真を示します。

送信機は左写真に示すとおり構築物から回転するように真ん中のハンドルを手動で回転させると送信機と送信アンテナが同時に回転します。
基本的には、敵の侵入経路に向けて設置しますが、経路が異なればそちらの方向に全体を回転させてパルス波を発射し続けます。
受信機を収容した構築物は送信機から100m程度離し設置します。


基本的には、送信機から発射されたパルス波は敵航空機に反射し、受信機でこのパルスを受信します。
このパルスの時間差を測定して距離測定し、受信の強度により方位角や仰角を測定します。
仰角、方位角、測距用に3人が一組で操作し、真ん中の方位角を測定する要員が手動で回転ハンドルを回すと装置とアンテナが同時に回転し測定方向を変えることができます。

※仰角と方位角用のブラウン管の前には、左の写真のようなカラー円板があり、仰角と方位角用空中線を電動モーターによる切替と同期して、カラー円板が回転し仰角と方位角用のブラウン管の表示を見やすく制御しているようです。

 

<訂正・追加資料>(令和4年12月08日)
タチ3のブロックダイヤグラムによる動作概念の解説について

技術的な資料については、米側のJapanese Wartime Military Electronics and Communications, Section 6, Japanese Army Radar, 1 April 1946しかなく、このブロックダイヤグラムをもとに機能概要を解説する。
陸軍関係者が戦後、米軍に提出した本ブロックダイヤグラムは不正確な内容を含んでいると思われることから、こちらで勝手に訂正している。

 

ブロックダイヤグラムでは、次の8つのブロックの機能で構成されている。
Transmitter Receiver Standard_Oscillator Wave_Form_Changer Automatic_Gain_Control  Detection  Elevation  Azimuth 


空中線(Antenna Unit)
アンテナに関する情報としては、下記の資料から抜粋する。
Japanese Wartime Military Electronics and Communications, Section 6 Japanese Army Radar, 1 April 1946
Xm antenna-----------------sterba, 4x2 with reflectors 
Rcvr antenna---------------5 dipoles in horizontal diamond formation (sometimes 4 or 6, see text)
Xm horiz. beam width ---25°


Japanese Army Radar, 1 April 1946の米軍のコメント
送信アレイは、地下の避難所の屋根に取り付けられた。小屋全体が方位角方向に回転した。受信アンテナは5または6個の水平ダイポールで構成され(写真とブロック図を参照)、全体が水平配列で取り付けられていた。 4つのダイポールは菱形に取り付けられ、方位角と仰角の決定に使用された。
受信アンテナのこの水平配置は、高い仰角でより高い仰角精度を与えた。

 

昭南にて押収せる英軍・超短波標定機の原理と構造 無線と実験 昭和18年7月号 陸軍兵技中尉 友納典人からの抜粋
※ 昭南にて押収せる英軍・超短波標定機の原理と構造のPDF版

https://drive.google.com/file/d/1J7hVir5FsyicRD-rDc3zDQNREU32mPk2/view

方向測定
方向測定用空中線は2個のダイポールより成り立っており、左右に数メートルの間隔をあけて車体に取付けられている。
両空中線が離れているので、目標飛行機が両空中線を連ねる線に直角な方向に在るときは両空中線から目標に対する距離は等しく、従って左右両空中線に誘発される起電力の位相は相等しい。しかし目標が他の方向に在るときには、目標から両空中線に至る距離に差があり、従って両空中線に誘発される起電力には、それに応じた位相の差を生ずる。(第12図)
それ故に、この位相差の零なる点を求めて、方向測定を行い得るわけである。実際の方法は次の如くである。今、両空中線の出力電圧を移相調整器を利用して差動的になるように加える。即ち合成電圧が両空中線出力電圧の差となる如くすると目標がAなる直角方向に在るときには反射波信号電圧の合成は零となる。

高度の測定
本装置の高度測定はゴニオメーターを利用するもので、米軍ラジオロケーターの如く空中線自身を傾けることをせず、ゴニオメーターの回転により測定を行うものである。

送信機(Transmitter Unit)

 
受信機の設備の中にある標準発振器(Standard_Oscillator)で1875Khzの正弦波を発生させ、通信ケーブルを介して送信機のある設備まで引き込み、送信側ではUZ-42(Buffer.Amp)→UZ-42(Sat.Amp)→UY-807A(PulseAmp)→UY-807A(PulseAmp)→TB508-Cプッシュプル(GridModulation)→TR-1501プッシュプル(自励発振)でアンテナからパルスを送信する仕組みである。
UZ-42(Sat.Amp)のところで飽和増幅して正弦波を矩形波に変換するとともに出力側で微分回路を介して送信用同期パルスを生成する。
使用周波数はタチ1の200Mhzからタチ3では英軍のGLレーダーが使用している78Mhzに変更することにより、安定的な運用が可能となった。
※参考資料 送信機と受信機の実機

受信機(Receiver Unit)


高周波段は日本独自のエーコン管のME-664Aを使用し、中間周波増幅段以降は戦前のテレビ開発で使用されていたUZ-6302をメタルした化した映像増幅管US-6505の相当管で住友通信製のMB-850を使用している。
受信機の構成は、高周波増幅1段、混合部から中間周波波5段、検波、ビデオ増幅及び低周波増幅2段といった一般的構成となっており、AVC機能を付属している。

 

標準発振器(Standard_Oscillator)


送信機側への対応として、UZ-6C6(1875kcOSC)→UZ-6C6(Amp)→UZ-6C6(Amp)→UZ6302(カソードフォロー)
通信ケーブルを介して1875Hzの正弦波を送信機の送信同期信号として利用する。
一方、各種指示器の制御のための同期信号を以下のように制御・加工する。
UZ-6C6(1875kcOSC)→UY-76(BufferAmp)→Goniometer(Range)→UY-76(Sat.Amp)→UZ-42プッシュプル(Sweeper)→UZ-6C6(Amp)→UZ-6302(カソードフォロー)→Blanking
基本的には、マスターの標準の1875Hzの正弦波に対して、ゴニオメーターを介することにより、マスターの正弦波の移相を変化させる。
更に、UY-76(Sat.Amp)→UZ-42プッシュプル(Sweeper)のより、正弦波から「のこぎり波」に変換される。
1875Hzの「のこぎり波」ということは、理論的な最大測距可能距離は80kmとなる。

選択器(Selector)
自動利得調整器(Automatic_Gain_Control)とあるが、選択器(Selector)の機能が主なため、ここでは選択器として取り扱う。 


(PahaseShifter)→UZ-6302(Sat.Amp)→UY-76(differential)→UZ-6C6(PulseAmp)→UZ-6302(PulseAmp)→UZ-6C6(カソードフォロー)
標準発振器(Standard_Oscillator)からゴニオメーターを介して移相が可変となる1875Hzの「のこぎり波」を入力として、更に位相調整器を介して1875Hzの「のこぎり波」から矩形波に成形するとともに微分回路により選択用パルスを生成する。
選択器の実際の処理としては、索敵用指示管(Detectionとあるので索敵と訳したが、本来は測距のほうがベター)のブラウン管に複数の反射があるとき、目標物を決定するため 選択器の移相調整器を調節し選択用パルスが輝点として表示しているので、これを目標物に一致させればよい。
したがって、もう一つの機能としては、ケート機能(Mixer)として、この選択パルスと受信信号とが一致した部分の受信信号のみ通過させることで、仰角と方位角の指示管には目標物のみ表示することが可能となる。

索敵用指示管(Detection)

 
Sweeperのコメントがあるだけだが、MC-656-C(Sat.Amp)→Ut-76D(Multi)→MC-656-C(Sat.Amp)→UY-76(Amp)と考えられる。
標準発振器(Standard_Oscillator)から1875Hzの「のこぎり波」を入力から、微分してパルス化とし、このパルスをトリガーとしてUt-76D(双三極管)によるマルチバイブレーターにより3750Hzを発振させて、再度3750Hzの「のこぎり波」を生成している。
したがって、索敵用指示管の水平軸の掃引は3750Hzに変更している。
3750Hzの「のこぎり波」ということは、理論的な最大測距可能距離は40kmとなる。
実際の測距作業については、事前に選択器で目標物に選択信号である輝点が設定していること前提となる。
この状態で、今度は標準発振器(Standard_Oscillator)のゴニオメーターを調節して、目標物の画像を掃引の零点(基線;直接波のパルスを表示しているところ)に像を移動させる。
この時のゴニオメーターの移動角度を距離換算すれば、精密な測距が可能となる。
※住友通信 真空管 CZ-501-D(MC-656-C)とUt-76D

索敵用指示管の表示イメージを下記に示す。

 

仰角指示管(Elevation)及び方位角指示管(Azimuth)


タチ1やタチ2の照準用指示管はアンテナの上下、左右のアンテナの切替と同期して受信機の出力にも同期した分配器で上下、左右の受信信号を分離してブラウン管にベクトルデータ表示していた。
タチ3では、上記の方式の分配器を廃止したため、仰角指示管(Elevation)及び方位角指示管(Azimuth)には、アンテナでの仰角と方位角のアンテナを電動モーターによる切替SWを介して、仰角と方位角の受信信号である情報が分離しないままで、仰角指示管(Elevation)及び方位角指示管(Azimuth)に同じように表示されることになる。
このため、電動モーターに連動したSWに同期した円板(180度交互に穴があいている)をブラウン管の前面に設置し、仰角指示管(Elevation)と方位角指示管(Azimuth)には穴の開いている時間のみ表示ができるような簡単な仕組みで対応している。
テレビジョン創成期のニポー円盤と呼ばれる穴の開いた円盤による機械式の撮影方式の逆バージョンと考えればよいかもしれない。

<追加検討資料>R05.01.13
更に工夫していることは、この円板には赤と緑色のフィルターを用いていたカラーディスクを利用している点にある。
米軍の資料(A short survey of japanese radar)には下記のコメントがある。
「アンテナスイッチに同期して、左(又は上方向)ローブが動作しているときは赤色の輝線が、右(又は下方向)ローブが動作しているときは緑色の輝線が見える。
アンテナの位相調整器を調整して、赤と緑色の輝線が重なったとき、その高さが正確に一致すれば、目に映る結果は白色になるはずである。
このアイデアは、おそらく戦争初期に捕獲されたイギリスのGLマークIIセットから取られたものであろう。」とある。
この上記コメントだけでは、この動作をこのまま理解することは困難である。
何故なら、コメントの動作には前提条件が1つ脱落している。
それは、指示機のブラウン管の蛍光色が青色であることが必須要件となることである。
蛍光色の青色の発色のためには、蛍光体にタングステン酸カルシウムや硫化亜鉛の成分が必要になる。
ブロックダイヤグラムにも方位角指示機(Azimuth)と仰角指示機(Elevation)のブラウン管の仕様としては、SSE-120-Wとあり、測距用の指示機のブラウン管はSSE-120-Gとあり明確に区別されている。
ここまではわかれば、あとは光の三原色の原理でこの動作を理解することは容易である。

<追加検討資料>R05.01.29
米軍のコメントにある「アンテナスイッチに同期して、左(又は上方向)ローブが動作しているときは赤色の輝線が、右(又は下方向)ローブが動作しているときは緑色の輝線が見える。
アンテナの位相調整器を調整して、赤と緑色の輝線が重なったとき、その高さが正確に一致すれば、目に映る結果は白色になるはずである。」とあるのに対してブラウン管の蛍光色を青色とすればいいとの安易な話をしたが、実際は「、左(又は上方向)ローブが動作しているときは赤紫、右(又は下方向)ローブが動作しているときは空色」となり、正確に赤、緑色にはならない。
さらに、ブラウン管がSSE-120-Gの型番では蛍光色は緑色であるのに対して、仰角指示機(Elevation)及び方位角指示機(Azimuth)のブラウン管はSSE-120-Wの型番である。
仮に型番の最後の記号が蛍光色を示すものであれば、SSE-120-Wの蛍光色は白色となるはずである。
しかし、これではローブの変化に対応して赤色、緑色となるが、一致した場合白色でなく黄色になるので、これもすべての色がコメントとは合わない。
ただし、黄色であれば、実際のブラウン管の白色発光が強ければ、白色に見えるはずであることから、ブラウン管の蛍光色を白色としたほうが正しい指摘と思われる。
また、文献<A short survey of japanese radar>の住友通信(日本電気)の項にも下記の資料があり、タチ3のために本ブラウン管の製造を開始し、タチ3の生産終了に伴い本ブラウン管も生産停止したように見受けられる。
白色蛍光板付き陰極線管(1942年8月~1945年5月)
白色蛍光色は、それぞれ赤と青の蛍光色を発する硫化亜鉛と蛍光体を混合し、赤と青のフィルターを使用することによって得られた。 透過光の視感度が同等になるように蛍光体とフィルターを解析・調整し、この原理を応用したブラウン管を製作中である。

 

仰角指示管(Elevation)及び方位角指示管(Azimuth)の表示イメージを下記に示す。

波形変換器(Wave_Form_Changer) 

 
Japanese Army Radar, 1 April 1946の米軍のコメントは以下のとおりである。
波形変換器(ブロック図参照)はテスト用にのみ使用された。 
テストでは、受信アンテナの数メートル前に設置したパルス信号発生器からr-fパルスを受信機に送出した。 
検出されたパルスは増幅器、マルチバイブレーター、フィルターからなる波形変換器に送られ、試験発振器のPRFに等しい周波数の正弦波が出力される。 
この正弦波をマスター発振器の代わりに使って、試験中のシステムの同期を取るのである。 

最後に
基本的には、事前に敵航空機の侵攻方向へ送信機も受信機のアンテナを向けているので、測定には物理的に仰角や方位角を変更するのではなく、電子的に仰角や方位角の最大感度を測定しているだけである。
したがって、敵航空機の侵攻方向が全く異なった場合には、送信機及び受信機のアンテナの向きを変える必要がある。
文献、戦記などで、タチ3の受信アンテナが電動モーターにより、くるくる廻っているような記載があるが、受信機には3名の操作員が機械に乗って操作しており、くるくる廻ると目が回り測定操作などの精密作業はできないのは明白である。
仰角と方位角の測定を完了すると、最後に測距担当者が精密測距を行い、直角三角形の斜辺に相当する敵航空機との直線距離を測定する。
この結果の測定された距離を仰角担当者に口頭で伝えると、ブロックダイヤグラムのアンテナ付近のゴニオメーターのとなりにDram of Altitudeと記載のある円筒の高度換算計により距離と仰角情報から、高度をドラムから読み取るとり、簡単に高度が判ることになる。
高射砲部隊には、諸元となる方位角と高度をセルシン若しくは電話にて報告して作業は完結する。


なお、照空灯(探照灯、サーチライト)など高射算定具が不要で直接照準できる機器については、セルシン(シンクロ)モーターと連動して自動的に敵機へ方位角、仰角を向けることは可能である。

なお、選択器の詳細については、以下の資料を参照してください。
仮称四號電波探信儀三型・取扱説明書(案)の解説について

http://minouta17.livedoor.blog/archives/23747537.html

 


陸軍の電波標定機における日本電気の役割であるタチ3の開発は、昭和19年10月を以てお役御免となっている。
陸軍のその他の電波標定機であるタチ1、タチ4、タチ31については、東芝が開発を所管しており、開発の流れは東芝へと向かったようだが、陸軍はそれでも気に食わず、最後は独逸のウルツブルグの完全コピー版であるタチ24を日本無線に発注したが、完成を見ず終戦を迎えた。
一方、海軍の電波標定機にあたる電波探信儀41(S3)、42(S24)、43(L1)は全て日本電気が一括受注しておりスムーズな開発が行われている。
ただし、肝心な艦船搭載用の対空射撃レーダーの実現については、未完でのままとなった。
返す返すも残念なのは、ここでも陸軍と海軍の壁が障害となり、この陸軍の電波標定機の開発でも問題が顕著に発生した。
個人的な所感ではあるが、日本電気が海軍のために米軍のSCR-268をベースに開発した4号電波探信儀1型41(S3)を陸軍の本土防衛用に採用すればかなりの成果がでたものと思われる。
逆に海軍では、4号電波探信儀1型「41(S3)」では重量級のため外地での展開が困難なことから大量生産には至らなかった。
また陸軍の高射砲部隊には、電波標定機以外にも簡易な電波警戒機があればよかったが、そのような発想がなく簡易版は開発されていないが、海軍の簡易版の1号電波探信儀3型(13号)などを配備しておき、対空警戒情報を部隊内で早期に把握して、肝心の電波標定機を直前まで運用停止しておけば、標定機の電波情報をB29のRCM機(Radar Counter Measure Aircraft)に把握されないので、電波妨害から逃れることができたのではないだろうか。
戦後の米軍の報告書では、B29のRCM機の電波妨害により日本の電波標定機が全て使用不可能になったとの記録があり、それほど航空機にとって電波標定機は怖い存在であったことは間違いない。
最後に沖縄戦での海軍4号電波探信儀1型の壮烈な姿を示して筆を置くことにする。

 


陸軍の電波警戒機(早期警戒レーダー)では、それまで高度の情報を把握するレーダーを開発していなかった関係上、電波標定機で培った日本電気のGLMKⅡのベースの仰角検出技術に着目して、下記のGLMKⅡ系の電波警戒機のレーダー開発に発展している。

タチ20:
http://minouta17.livedoor.blog/archives/18022258.html
その他の名称:高度測定用受信機(Radio detector for elevation angle measure)
タチ20は、タチ6の固定設備と組み合わせて使用するように設計された高度測定機であった。
住友通信(日本電気)は、1943~44年の冬にタチ20について独自の研究開発を行った。
安立電気がその後12台を生産した。

タチ35:
http://minouta17.livedoor.blog/archives/18022259.html
その他の名称:高度測定用電波警戒機(Radio detector for elevation angle measure);  5式警戒装置(Type 5 Warning Device)
タチ35は、GCIおよび早期警戒高度検出のためのタチ6-20の組み合わせに代わるものとして設計された。
試作会社住友通信。実用化済、三機松戸、越谷、御前崎に於いて実用中
住友通信(日本電気)はこれらの装置のうち5つだけを作った。

タチ22:
http://minouta17.livedoor.blog/archives/18022260.html
その他の名称:なし
タチ22は、以前の高度測定機能の同じ欠陥を克服するために1944年後半に設計された実験的な高度測定機でした。
住友通信(日本電気)が開発した単一の実験モデルは、占領軍が入る前に破壊された。

 

参考文献
Japanese Wartime Military Electronics and Communications, Section 6, Japanese Army Radar, 1 April 1946
陸戦兵器総覧 1977年3月 日本兵器工業会編
見晴台遺跡発掘調査報告書(第49 ・ 50 ・ 51次)2021 名古屋市教育委員会
工藤洋三・鈴木梅治『アメリカが記録した室蘭の防空』2014年 工藤洋三
日々の”楽しい”をみつけるブログ
https://www.ku-hibino.com/
山の上に残る戦争遺跡-電波標定機基礎- 福岡県北九州市若松区大字小石
https://www.ku-hibino.com/entry/2020/12/20/225625
北九州の防空⑧~石峯山電測陣地
https://ameblo.jp/mango2-100822/entry-12656859589.html

mixi 骨董真空管の収集とオークションコミュのUt-76D
https://mixi.jp/view_bbs.pl?comm_id=65001&id=11288294
ケンさんのホームページ http://kawoyama.la.coocan.jp/

 

 

 


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