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第百三十号海防艦に搭載された最新の電波兵器について(令和4年10月07日)

2022年10月07日 08時12分25秒 | 03陸海軍電探開発史

第百三十号海防艦に搭載された最新の電波兵器について(令和4年10月07日)

月刊誌「丸 2022年11月号」に、米軍フォトリポート 日本海軍海防艦の死闘(写真提供;原勝洋、解説;小高正稔)の日本海軍の海防艦の写真が掲載されています。
解説には「第百三十号海防艦の可能性が高く、電磁ラッパの大きい22号電探は改良を加えた22号電探改四ないし改五だろう」とのコメントがあります。
この写真で驚いたのは、海防艦の前檣に22号電探の電磁ラッパが1つしかない点です。
いままでの資料では、電磁ラッパが1つしかない22号電探は、敗戦末期の潜水艦用にしか搭載されなかったはずなのに、本写真で水上艦艇である海防艦にも搭載されていたことが明らかにされました。

ここでセンチ波レーダーである2号電波探信儀2型(22号電探)の電磁ラッパの1本化が実現したことは、レーダーの指向性の精度が格段に向上すること意味します。
この状態でアンテナを回転させれば、反射波を360度ブラウン管に表示させると、パノラマ画像(PPI)として全景を一度にみることができる現代のレーダーと同等の機能となりますが、22号電探ではPPI機能(Plan Position Indicator scope、Pスコープとも)については実現することはできませんでした。

それでは、22号電探の開発過程について各種文献をもとに簡単に説明します。
「日本無線史」10巻 1951年 電波管理委員会の抜粋版
二号電波探信儀二型
この兵器は、波長10糎を使用し、艦船用対水上見張として計画されたもので、最初はダイポール空中線を奥行の長い放物面反射鏡(仮称鮪)を附し、送受信機が空中線と一体となって居り、部屋と共に回転する方式のものである。一〇三号と仮称せられた。
昭和十七年五月日向に装備して、実験を行い、その僅キスカ進攻作戦に進撃し、実験員もこれに参加して一応の成績を収めたのであるが、不安定なるため取扱に熟練を要し、且つ檣上装備としては重量容積が過大であった。


参考資料
仮称二号電波探信儀二型の取扱説明書 昭和17年11月26日 海軍技術研究所電気研究部
http://minouta17.livedoor.blog/archives/20559548.html

(二号電探二型改二)
その後本機は、対潜見張用として小型艦艇に装備する要求が出た。依って全体に構成を変更し、電磁ラッパ及び導波管を使用することに改めた。
即ちラッパを載せた旋回装置を使用し、これを艦の高所に置き、本体を下方の電波探信儀室に装備し、電磁ラッパのみを旋回する方式が取られたのである。
これは昭和十七年十月に完成し、二号二型改二と呼ばれ、駆逐艦、海防艦、駆潜艇及び掃海艇に対し、月産四、五台程度で整備されるようになった。
第3.27図は二号電波探信儀二型改二の電磁ラッパの部分の写真である。
しかしこれも依然として安定性に乏しく(超再生検波方式が原因)、使用者はその取扱に苦労し、装備調整も調整を専門とする技手の手を煩わさねば物にならぬと謂う状況であった。
なお、電磁ラッパは、円形断面開口直径75cmのものを採用した。

(二号電探二型改三)
その後潜水艦用として電源に50c/sの交流を使用し小型化した二号二型改三が生まれ、昭和十八年十二月頃から逐次潜水艦に装備され始めたが、作動不安定なため評判悪く第六艦隊から邪魔になるばかりだから速やかに撤去していただきたい等と電報が来るような状態であった。

二号電探二型改三の初期型の特徴
受信機と送信機から別々の円形導波管が室外へ配置されていることから、電磁ラッパは2つのものと思われる。
水上艦の二号電探二型の電磁ラッパの回転には手動のハンドルが用いられるが、本機には床に旋回管制器があり足元で操作する。
表示器は、水上艦のものは縦型のものであるが、改三では横型となっている。
なお、昭和二十年に入ってからは単一導波管方式が実用化され、伊二〇一潜水艦に装備された。しかしながら導波管関係になお問題が残されていた。

Reports of the U.S. Naval Technical Mission to Japan, 1945-1946からの抜粋
2号2型改3(Mark 2 Model 2 Modification 3)レーダー
この装置は、特に潜水艦用に設計されたもので、その上にのみ設置されている。電気的には改4の装置に似ているが、機械的な構造ははるかにコンパクトである。送信機、RFシステム、アンテナ、およびパルス数にはいくつかの電気的な違いがあるが、これは毎秒600である。完全な特性は表IIに含まれ、完全な配線図は別添(H)に含まれている。
この装置は、送信と受信の両方に単一のホーンアンテナを使用している。導波管のウォーターシールについては、このレポートの設置セクションに記載されている。この装置で使用された異例の二重化とRFシステムは、円偏波を生成した。

二号電探二型改三の最終型の特徴
送信機と受信機からの円形導波管がジョイント部で接続して1本の円形導波管として外部へ導かれ、1本の電磁ラッパに接続されている。
表示器も横型のものが採用されている。
米軍のReports of the U.S. Naval Technical Mission to Japan,にもあるように、本二号電探二型改三は、水上艦で使用されている二号電探二型とは構成する仕様が大幅に異なっており、別機種といってもいいだろう。
特に、レーダーの基本仕様を決定するパルス繰り返し周波数は、水上艦が2500Khz(探索距離60km)に対して、改3は600Khz(探索距離250km)を採用している。
水上艦二号電探二型が、パルス繰り返し周波数に2500Khz(探索距離60km)を採用する目的は、水上見張と射撃管制の両機能を実現するためであるが、改3は600Khz(探索距離250km)を採用し、潜水艦としての必要機能である水上見張に徹した機能のようであるが、水上以外にも対空見張を意識した仕様のものかもしれない。(なお、当時のセンチ波の対空探知能力はないとの当初判定であったはずなのだが?)
ただし、対空見張は1号電探3型(13号電探)の専用のレーダーほか電波探知機などが用意されている。

(二号電探二型改四)
しかし昭和十九年一月にオートダイン式受信機(二号電探二型受信機改一)が完成して稍小康を得たが、水上艦艇用のものに対しては、更に送信機関係の故障対策として変圧器類に改良を加え、量産に適するように設計を変更し、これを二号二型改四と名付けた。
昭和十九年三月には緊急生産が下命され、続いて七月緊急整備が行われ、戦艦、巡洋艦を初めとして多数の艦艇に対して整備が行われた。
更に同年七月には鉱石検波器を使用したスーパーヘテロダイン式受信機(二号電探二型受信機改二)が完成し、その上に自己鑑査装置を附属せしめることに依り、著しく作動安定化し、且つ洋上に於いて調整用の目標の無い場合にも最良調整を保持することが出来るようになった。
玆(げん)に於いて引き続きこの受信機の整備工事が実施され、研究試作に当たった人員を南西方面に送り、水上艦艇に対して、受信機の換装工事と共に、電探射撃に必要な関連工事を行い、比島作戦準備として最後的修理再調整を行った。同年八月には、全速に実施された。

残存艦は全て2本の電磁ラッパの22号電探が装備されている。

Reports of the U.S. Naval Technical Mission to Japan, 1945-1946
2号2型改4(Mark 2 Model 2 Modification 4)レーダー
この10センチメートル波装置は、すべての戦闘艦に対水上見張装置(改4M)または対水上見張および射撃管制装置(改4S)の組み合わせとして設置された。後者のタイプの設置では、より大きな電磁ホーン、セルシンアンテナ制御システム、および追加の電圧安定化装置が使用された。
アンテナは、2つの電磁ホーンが上下に取り付けられて構成されている。(標準的な取り付けについては、図5を参照にすること。)上側のホーンは受信用、下側のホーンは送信用である。 改4S(Modification 4S)アンテナの利得は13デシベルと言われていた。

二号電探二型改四の特徴
改4の特徴は、基本的には受信機の改良に重点が於かれており、超再生検波方式からオートダイン式受信機(二号電探二型受信機改一)、更にスーパーヘテロダイン式受信機(二号電探二型受信機改二)と改良することにより性能がやっと安定化し、その上に自己鑑査装置を追加し最良調整を保持することが可能となった。
電磁ラッパの回転は、手前にあるハンドルを手動でまわす必要がある。
そのほか、電磁ラッパは、円形断面開口直径80cmに拡大し、空中線利得を増加させている。

考察
ここで、表題の「第百三十号海防艦に搭載された最新の電波兵器について」の水上艦に搭載された単一電磁ラッパの件を検討する。
まず、「大日本帝國海軍 特設艦船 DATA BASE」で第百三十号海防艦について調査すると、本艦は昭和19年02月22日に起工し、昭和19年08月12日に竣工している。22号電探の新設工事日の記録がないので、同型艦の第百三十二号海防艦を調べると昭和20年3月16日から21日にかけて「二十二号測距儀新設」とあるので、第百三十号海防艦にも同時期に22号電探の新設工事があったものと思われる。
なお、水上艦には最終型の二号電探二型改四の新設工事となるが、このレーダーには単一電磁ラッパは採用されていない。
唯一、採用されているのは、潜水艦用の最終型の二号電探二型改三しかない。
このことから、昭和20年から装備された水上艦である海防艦などの艦種には水上見張の機能しか必要ないことから、最新型の二号電探二型改三を採用したものと思われる。
何故潜水艦用の二号電探二型改三を水上艦用のレーダーに採用したのかという理由は今となってはわかりません。


参考文献
丸 2022年11月号 潮書房光人新社
「日本無線史」10巻 1951年 電波管理委員会
Reports of the U.S. Naval Technical Mission to Japan, 1945-1946
真実の艦艇史無 2005年5月 学習研究社
大日本帝國海軍 特設艦船 DATA BASE
http://www.tokusetsukansen.jpn.org/J/index.html
Anatoly Koshkarov提供資料

 

 


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