実務家弁護士の法解釈のギモン

弁護士としての立場から法解釈のギモン,その他もろもろのことを書いていきます

譲渡制限特約付債権の譲渡(2)

2018-05-09 09:37:29 | 債権総論
 ところが、平成21年にかなり変則的な判例が登場する。譲渡禁止特約付債権の譲渡の無効を、譲渡人側が譲受人に主張しうるかが問題となった事案で、その判例は、譲渡禁止の特約に反して債権を譲渡した債権者は、同特約の存在を理由に譲渡の無効を主張する独自の利益を有しないのであって、債務者に譲渡の無効を主張する意思があることが明らかであるなどの特段の事情がない限り、その無効を主張することは許されないと解するのが相当というのである。この判例の事案は、債務者は債権者不確知を理由に供託をしていたようで、債権譲渡の無効を明確には主張していなかったのである。そのため、譲渡人からの債権譲渡の無効の主張が認められないという結論になった。
 この判例は、譲渡禁止特約の物権的効力説からも説明ができないわけではないらしいが、かなり相対的効力に近づいた判例とも受け取れる。

 以上のような判例がある中、改正債権法は、譲渡の制限の意思表示があっても、債権譲渡の効力は妨げられないとして、譲渡禁止(制限)特約の物権的効力を放棄した。ただし、悪意、重過失のある譲受人に対する関係では、譲受人からの履行の請求を拒むことができ、譲渡人に弁済等をすることで譲受人に対抗できるという構造となった。
 もともと、譲渡禁止(制限)特約は、債権者を確定しておくという債務者の利益のための仕組みなので、債務者の利益を考慮する必要がない事案であれば、上記平成21年判例のような結論が出てくるし、新法の人的抗弁的な扱いでも十分だということになってくるのである。それはそれでよく理解できるところではあるし、現行法の解釈でも、債権的効力説がないわけではなかったようである。

 が、しかし、新法の解説書のうち、譲渡制限特約の部分を読んでいたところ、少し疑問も生じてきた。

譲渡制限特約付債権の譲渡(1)

2018-05-02 09:36:58 | 債権総論
 現行法上、債権はその性質に反しない限り自由に譲渡できるが、譲渡禁止特約という概念があり、譲渡禁止特約付の債権は債権譲渡ができないという構造となっている。ただし、この特約は善意の第三者に対抗することができない。
 この、譲渡禁止特約の効力について、よく、物権的に無効、あるいは物権的効力があるという言い方がされる。どういうことかというと、譲渡禁止特約があれば、債権の譲渡性そのものが剥奪されると考える。したがって、悪意の第三者に対する債権譲渡は、およそ譲渡の効力は生じないのであって、譲渡はされるけれども債務者はこれを無視することができるという相対的な解釈はとらないということである。後者の考え方を債権的効力と言ったりすることがあるが、この債権的効力説は、極端な場合は、譲渡禁止特約はそれ自体あくまで債権者債務者間の債権的合意に過ぎないのであるから、これに違反する債権譲渡も有効なのであって、債務者は債権者に対して合意違反という債務不履行責任を問いうるに過ぎないという極端な解釈まであり得るらしい。

 とはいえども、伝統的に、判例・通説は物権的効力説といわれていた。

所有権留保の弁済による代位(5)

2018-03-23 13:07:58 | 債権総論
 ただし、この2つの判例の理解には、一つ問題があるように思う。前回の判例は、法定代位の事案ではないということを前提に、民事再生法45条を引用することになったのであるが、では、法定代位の事案だったらどうなのか。という点である。
 どういうことかというと、仮に前回の判例が法定代位の事案だとしても、立替払いは自動車購入時に速やかに実行される。従って、弁済による代位も立替払い時に生じると考えると、事案的には法定代位後の債務者の民事再生の事案なので、実は民法501条1号がズバリ問題となりそうなのである。この条文が問題になるのであれば、債務者の破産や民事再生の前に、所有権名義は信販会社に移転しておく必要が出てくる。もしそうだとすると、結局、合意の内容如何に関わらず、立替払いの時は所有権名義を信販会社が取得しておく必要があるということになりそうである。
 なお、弁済による代位の付記登記(つまり、現行民法501条1号の代位の付記登記)は、改正債権法においては対抗要件とはされなくなった。したがって、改正法施行後は法定代位の事案では、再生債務者や破産管財人に対抗するための付記登記の必要性はない。担保権の任意譲渡の事案について、民事再生法45条や破産法49条を気にすればよいだけである。

 時として、判例は例外的な事案が先に登場し、原則的な事案が後から登場するということが、ままある。これには理由がありそうである。なぜなら、原則的な事案は、法理上当然と考えるので、そもそも争いになりにくいからである。そこで、例外的な事案が先に判例として登場し、その判旨が原則と思っていた結論と異なるような結論だと、では、判例は原則をどう考えているのだろうと、後から争いになるのである。
 所有権留保の弁済による代位の判例は、例外的判例が先に登場してしまった典型例であろう。原則判例が未だ登場していない間は、注意を要する典型的判例かもしれない。

所有権留保の弁済による代位(4)

2018-03-14 10:02:27 | 債権総論
 今回の判例の判決理由の中で、前回の判例との違いが問題となっている。今回の判例は、前回の判例をどのように位置づけているのか。
 今回の判例は次のようにいう。
 前回の判例の事案は、「販売会社に留保された自動車の所有権について、売買代金残額相当の立替金債権に加えて手数料債権を担保するため、販売会社から代位によらずに移転を受け、これを留保する旨の合意がされたと解される場合に関するもの」であるというのである。つまり、留保所有権の法定代位の事案ではなく、任意譲渡の事案だというのである。
 そこで、前回の判例の判旨をもう一度よく読んでみると、確かに、「本件三者契約は、販売会社において留保していた所有権が代位により被上告人に移転することを確認したものではなく、被上告人が、本件立替金等債権を担保するために、販売会社から本件自動車の所有権の移転を受け、これを留保することを合意したものと解するのが相当」と言っている。

 実務家は、比較的判旨を素直に読む傾向があると思う。それは、実務は判例が支配する場だからである。
 そして、この2つの判例を素直に読むと、三者間契約の内容は、留保所有権の任意譲渡と解釈されないように、法定代位によって取得することを明確にした内容としておく必要を痛感させられる判例と、多くの実務家は読むのではないだろうか。ただし、法定代位構成だと、手数料債権部分は被保全債権とはならない可能性が出てくるであろう。

 もっとも、以上は、実務家である私の発想であり、学者がこの2判例をどう評価するかは、あずかり知らない。

所有権留保の弁済による代位(3)

2018-03-07 14:37:47 | 債権総論
 5、6年前の判例がどのような事案でどのような判旨かというと、信販会社が自動車購入者の購入代金の立替払いをし、自動車購入者は、手数料を含めた立替金を、信販会社に分割払いするという内容であるが、自動車名義は販売会社に留保されており、信販会社の立替払いにより信販会社が所有権が移転し、立替金等の分割払いが完済するまで信販会社に所有権が留保されるという約定になっている事案である。ただし、信販会社が立替払いを実行した後も、自動車の登録名義は、販売会社のままとなっている事案である。その後自動車購入者が小規模個人再生手続開始決定を受けているが、状況は破産手続開始決定を受けたのと同じと考えてよい。
 このような事案で、判旨は、再生手続開始の時点で信販会社を所有者とする登録がされていない限り、販売会社を所有者とする登録がされていても、信販会社本件立替金等債権を担保するために本件三者契約に基づき留保した所有権を別除権として行使することは許されないとしたのである。しかも、ここでは民事再生法45条が参照されている。

 前回の判例は、一見すると、あたかも所有権留保は登記・登録無しには弁済による代位を再生債務者(破産の事案であれば破産管財人)に主張できないとも読めそうなのである。だからこそ、弁済による代位によって取得した留保所有権を、登録名義の移転なしに破産管財人に対抗できるという今回の判例には、意外感が伴うのである。