Reflections of Tomorrow

シンガーソングライターを中心に、知られざる未CD化レコードを紹介していくページです

Bonfield-Dickson

2011-04-18 | SSW
■Bonfield-Dickson / Portage■

  桜の花も散り、陽気も安定してきていよいよ春本番です。 本来であればこの季節の訪れを手放しで喜びたいところですが、今年はそんな気分に浸ることにためらいを感じてしまいます。 しかし、うつむいてばかりもいられないので、この季節にピッタリな爽やかでフレッシュなレコードを取り出してみました。 
カナダ出身の Bonfield-Dickson が 1976 年に発表した「Portage」は誰もが経験した甘酸っぱい学生時代の思い出に似た清々しさに満ちたフォークロックの名盤です。 Bonfield-Dickson のボーカルやハーモニーは新緑のなかを駆け抜けるそよ風のように感じられ、アコースティックで安定感のあるアレンジに包まれて、サウンド全体が思い出の一コマのように視覚的に訴えてくる感じがします。 その一因は A 面ラストに収録されている「オー!シャンゼリゼ」(原題は「Aux Champs Elysees」)のせいかもしれません。 誰もが知っている曲ですが、レコードでこの曲を聴くという経験は意外でしかも新鮮だからです。

  アルバムは「Aux Champs Elysees」を除いて、大雑把にアップ系とスロウ系に大別できます。 アップ系にはホーンセクションが導入されることが多いのですが、該当するのは「Don’t Know How To Laugh」、「Keeps You Riding High」そして「Cool Baby」の 3 曲でした。 このなかで秀逸なのはオープニングを飾る「Don’t Know How To Laugh」でしょう。 全体的には爽やかで軽快なポップチューンなのですが、ホーンセクションのアレンジなどは 60 年代末のソフトロックのよう。 途中でテンポダウンするアイディアも効果的です。 
  残る 7 曲はスロウ系ですが、とくに出来がいいと感じるのは、A 面では「Gypsy Saviour」です。 リズムセクションがほぼ排除されたこの曲は、うっすらとしたヴェールに包まれたようなスロウなワルツ。 フルートの淡い音色がメロディーに彩りを添えているようです。 B 面では「Take Time」から「Can’t Pretend To Love You」への流れがきれいです。 前者は♪今日のために歌おう。いまのために笑おう♪というメッセージが心に染み入るバラード。 後者は♪きみを愛しているふりなんてできない♪という意味深なメッセージながらも優しいメロディーとメロウなアレンジが美しい楽曲でした。 
  ラストの 2 曲の流れも悪くありません。 「Until Yesterday」はストリングスの温かみに抱かれた素朴なラヴソング。 そして、ラストの「Wendy」は静かな入りから徐々に高揚していく展開に富んだバラード。 僕はこの曲を聴くとなぜか The Beatles の「Dear Prudence」を思い出してしまいます。 ギターの音色とメロディーに一瞬近い部分があるからなのでしょう。

  Bonfield-Dickson が残した唯一のアルバムは、カナダのフォークシーンのなかでも指折りの名盤だと思います。 そのサウンドの鍵を担ったのは、カナダ産のアルバムでしばしば名前を見かける Jack Zaza でした。 トロントにある Zaza Sound Productions という彼のスタジオでレコーディングされたことからも分かるように、Jack Zaza のサポート無しでは、このアルバムは存在しなかったのかもしれません。 
  このアルバムをお持ちの方はお気づきでしょうが、Bonfield-Dickson は彼らの本名ではなく、Henri Audetと Jim Duchesneau の二人組です。 ともにフランス系の名前ですが、どうして彼らが Bonfield-Dickson と名乗ったのかについては、謎のままです。 Jim Duchesneau が 2004 年にこのアルバムについてほんの少し語ったサイトを発見したのですが、そこにもその理由は書かれていませんでした。 おそらく本国でも存在が風化しているこのアルバム。 ユニット名の由来をいまさら詮索する人は、どこにもいないのかもしれません。

■Bonfield-Dickson / Portage■

Side-1
Don’t Know How To Laugh
The Thousand One Twenty Days
Riding High
Gypsy Saviour
Born Dead
Champs Elysees

Side-2
Take Time
Can’t Pretend
Cool Baby
Until Yesterday
Wendy

Produced by Ron Harrison, assited by Paul Zaza
Executive Producer : Ginny Ridpath
Recorded at Zaza Sound Productions, Toronto, Canada 1976

Bonfield-Dickson : Henri Audet & jim Duchesneau : vocals, guitar

Eugene Amaro : tenor sax
Andy Benac : strings
Laurie Bower : trombone
Arnie Chycoski : lead trumpet
Art Devilliers : guitar
Ron Harrison : keyboards
Barry Keane : drums
Moe Koppman : alto sax, flute
Russ Little : trombone
Bob Lucier : steel guitar
Beauna Neilson : strings
Jack Neilson : strings
Frank Radcliffe : strings
Barul Sugarman : strings
Erich Traugott : trumpet
Case Ysselstyn : strings
Jack Zaza : bass, english horn, alto sax, clarinet, flute, harmonica,oboe

Ahmek records CSPS1969


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