令和3年12月20日(月)
閑さや
岩にしみ入
蟬の声
山奥の静かさのさなか、
心地よく澄んだ耳に蟬の鳴き声がする。
堅い大きな岩に吸い込まれて、
また静かになる。
蟬の鳴き声が、何と静かさを深めることよ、
という心象風景がまず考えられる。
蟬の声を、
斎藤茂吉はアブラゼミとしたが、
小宮豊隆はニイニイゼミとした。
これは、後者の勝ちになったという。
ニイニイゼミの鳴き声だ。
じいっと長く尾を引く鳴き声だが、
途切れた時に息継ぎのような静寂がある。
それを芭蕉は逃さず感得したのだ。
しかし、芭蕉は散文では、
寺は「物の音聞こえず」と書いている
のだから、蟬は鳴かなかったとも言える。
すると、
「岩に巌を重ねて山とし」の岩が
生命を持つ蟬を飲み込んだ後の静けさを、
つまり岩が生きているかのような
アニミズムの世界を描いているとも言える。
とにかく、面白い。
様々な想像を読む人に恵んでくれる
秀句だ。